ゴーン逮捕に海外から疑問の声:日本の司法(とメディア)が問われていること(2018.11.28配信分レビュー:その1)
ー ほぼナイ! HEAD LINE ー
<社内クーデターなのでしょうか>
19日にマスコミ各社が日産のカルロス・ゴーン前会長と側近の逮捕の一報を一斉に伝えました。
連日「容疑者」の呼称が飛び交う一方、西川(さいかわ)社長ら残った経営陣による「ゴーン排除」の社内クーデーターとの見方も出ています。
今回の逮捕劇は世界的な大物経営者の突然の逮捕という事から、海外でも連日大きく報道されましたが、その報道内容は徐々に日本の報道とかけ離れたものになってきています。
「もう一方の当事者国」とも言えるフランスは、当初からゴーン前会長逮捕そのものに批判的な論調が多くみられるのは当然として、米国の世界的経済紙WSJ(THE WALL STREET JOURNAL)が現地26日付で “The Ghosn Inquisition (ゴーン氏の不可解な取り調べ)” と題した社説を発表、逮捕後のゴーン前会長に対する扱いを批判しています。
(以上 HEADLINE 2018.11.28)
< ほぼナイ! レビュー動画(Vol.40):【 見逃し配信を視聴 (YouTube)】>
『ココがヘン!ニッポンのニュース:ゴーン逮捕に海外から疑問の声:日本の司法(とメディア)が問われていること』
<参考:日経電子版> ゴーン元会長勾留状況 仏の批判に東京地検「問題ない」
そしてそれは日本で起こって「しまった」
「ゴーン会長逮捕」の速報は、世界的な大物経営者の逮捕劇という強い衝撃から、あっという間に世界を駆けまわる事になった。
日本のメディアは各社一斉にこの逮捕劇を取り上げた。
そして、それを追うように、海外のメディアにも次々と Breaking News:速報 が流れた。
特にゴーン氏を日産に送り込んだ親会社のルノーのあるフランスでも、このニュースの衝撃は大きかったようで、ある意味日本より大きかったかもしれない。
日本のメディアでも、当初からフランスの反応が大きく報道され、その反応の多くは「一体何が起きているのか」という疑問の声はもちろん、日本に対して批判的な声も多く伝えられた。
今回のような経済事件は、例えば殺人や強盗のような社会的な犯罪と違って、一般人には理解しづらい部分が多く、「よくわかんないけど、悪いコトしたんじゃない?」程度の認識が多いかもしれない。
それが、海外で起こった事件となると余計にわかりにくいことが多いし、今回の逮捕でフランス人が混乱したり日本にネガティブな感情を持つことは、当然と言えば当然だ。
ボクは「ほぼナイ!」で何度も言ってきたけど、今回のような国際的なニュースに関しては、当事者国「じゃない」第三国のメディアから情報を取るのを、真相を知るコツ、としてオススメしている。
第三国ならヘンな思い入れもないし、妙なシガラミもない。
フェアなスタンスで冷静に情報を集め、分析する、という事がやりやすいから。
なので、今回のニュースは「当事者国」である日本とフランス以外の国のメディアの情報が、意外に真相に近づく早道だったりする。例えばアメリカとか。
ただし、今回は世界の人々にとっても「不幸」なことに、事件の現場が日本、という事になってしまった。
それがなぜ不幸なのか。答えはカンタン。現在の日本は海外メディアにとって、先進国中最も情報の取りにくい国、だから。なぜか。
まず、そもそも海外の主要メディアの多くは、日本を重要な取材対象国として扱っていない。
具体的には、かつて日本が世界第二位の経済大国であった時には、ワシントン・ポストだの、BBCだの、世界的に知られた大手メディアがこぞって東京支局を大々的に構え、取材活動を繰り広げていた。
でもこれは過去のハナシ。現在、各海外メディアの東京支局は大幅に規模を縮小したり、更には撤退していたりする。
アジアの中心は完全に中国に取って代わっていて、以前は東京にいた記者も北京や上海なんかに移っていたりする。
それだけじゃない。日本は人口減少と言いながらも、一応今のところは優に一億を超える人口がいて、頭数だけはもちろん中国やインドほどじゃないけど、まだまだ世界有数の人口大国。
けど、一人当たりの金持ち具合(一人当たりGDP)で言うと実は世界で25位まで落ちている。中国に次ぐ世界三位の経済大国、と胸を張れるのか、実はメチャ怪しい。
そりゃ、海外メディアも日本から出ていっても仕方ない、というワケ。
なので、海外メディアを見てると、日本のニュースが中国から伝えられる、という事も珍しくない。
コレ、日本でも普通にやられている。海外の小国のニュースは近隣の国からレポーターが伝えるケース。
その国に記者を置いてないと、当然そうなる。それを日本が海外のメディアにやられてるだけ。
世界にとって、日本は「その程度の国」になってしまっている、というコト。
けど、それ以上にボクが問題だと思うコト。それが、これも「ほぼナイ!」で何度も言ってきた「記者クラブ制度」。
この世界に類を見ない奇妙な「制度」があるお陰で、日本で起こるニュースの出来事のほとんどは「記者クラブ」が仕切ってしまう。
その結果、この「記者クラブ」は何をするかとすると、クラブ外の存在を徹底的に排除することになり、クラブに入れない海外のメディアはロクに日本で取材もできない。
海外では政府が取材規制したりするケースはあるけど、それは政府が絡む政府に都合の悪い取材のみ。中国とかもそう。
日本は言論の自由もあるし、政府は一応取材の自由を保障している。この点に関しては、特に政府に問題はない。
問題は「記者クラブ」。ココが勝手に外部を排除し、結果、海外メディアの取材の自由を奪っている。
もちろん、ゴーン氏逮捕当日に開かれた日産の西川社長の記者会見も、海外メディアは日本のメディアを見るだけで直接取材できてないし、ましてや質問もできない。
そもそも人がいないし、いても記者会見には入れない。一事が万事、こんな感じ。
現在ゴーン氏を拘束している検察(東京地検)についても、検察に当然のように「記者クラブ」があって、海外メディアは自由な取材ができない。
先進国でこんなに海外メディアに閉じられた記者会見は、日本以外ではどこにもない。どこにも。
外国が日本を誤解している、とか言ってメディアが批判したり、いかに日本のことを知らせるかが課題だ、とメディア内で話し合ってみたりしているが、実にバカバカしい。
「記者クラブ」が海外メディアに門戸を開放して、自分達がやっているように自由に取材できるようにさせてあげれば、問題のかなりの部分がアッサリ解消する可能性はメチャメチャ高い。
自分たちが海外メディアを締め出しておいて、「理解されてない」「誤解だ」と、一体どの口が言ってるのか、と思う。
こんな日本で世界的な経営者が逮捕された。海外メディアからすると、ゴーン氏逮捕自体に興味はアリまくりだが、肝心の情報が全然入らない。
世界のメディアにとって、これは最悪の状況だ。こんなおいしいネタが、よりによって「あの(記者クラブのある)」日本で起こって「しまった」。
そんな状況なので、海外メディアは手に入るわずかな情報をかき集めて報道する中で、日本の記者クラブメディアが取り上げない、別の視点を見つけ出した。
日本のゴーン報道と海外のゴーン報道の中身に大きな違いが出てくるまで、そんなに時間はかからなかった。
ゴーン氏の逮捕容疑とは
今回のゴーン氏の逮捕容疑は「有価証券報告書の虚偽記載」。なんのこっちゃ。
日本の報道ではゴーン氏の別荘とか、報酬の額とか、日産内のクーデターだとか、日本(日産)とフランス(ルノー)の主導権争いだ、とか大盛り上がりだ。
けど結局のところ、日本国内ですら良くわからないまま、ゴーン氏の逮捕容疑はどうやら「最近3年間の受け取る予定だった報酬を少なく有価証券報告書に記載し提出していた」というものだと明らかになりつつある。
いろいろ騒がれてるけど少なくとも逮捕した東京地検は、これオンリーでヤルらしい。
ということは、他のコトは東京地検として罪に問うだけの証拠もない、ということだ。
となると、これはとんでもないハナシになってきた。なぜかと言うと。
そもそも今回問題になっている有価証券報告書は、会社が作成して提出するもので、個人が提出するものじゃない。
となると、もしこの報告書に問題があるとして、責任が問われるのはゴーン氏本人じゃない。日産という会社の責任だ。
と言っても、まさか日産の全社員が逮捕されるはずもなく、罪に問われるのは日産のトップ。
だからゴーン氏が捕まったんじゃん、と思ったアナタ、ハナシはそんなに単純じゃない。
実は最近2年間は、日産のトップはゴーン氏じゃない。ゴーン氏は会長職だったワケで、ある意味名誉職。会社のホントのトップは、あくまで社長。正確には代表取締役社長。
この2年間、日産のトップは西川社長だ。つまり、仮に検察の考えてる通りだとして、ゴーン氏が悪いのは1年だけで、残りの2年は西川社長の責任、ってことになる。
単純に言えば、ゴーン氏の2倍、西川社長が悪い、ってことになる。
更に、そもそも問題の報酬の過少申告だけど、これ自体も実際には貰ってない(貰う予定だった)もので、実際に報酬を受け取ってから明らかにすればそれでいいでしょ、とゴーン氏は主張してるようだ。
もっともなハナシだ。この主張が通れば、ゴーン氏は何も悪くないことになるし、仮に悪いとしても、責任は3分の1で、3分の2は西川社長が悪い。
西川社長はゴーン氏逮捕当日「憤りを覚える」とか怒ってたけど、お前が一番悪い、ってハナシだけど、西川社長逮捕か?なんてどのメディアも伝えてない。
それがどうやら逮捕当日からメディアがちょろっと触れていた「司法取引:Plea Bargaining」。
はっきりした発表がないので推測だけど、ゴーン氏の2倍悪い西川社長が「司法取引:Plea Bargaining」でゴーン氏を東京地検に「売った」と考えるのが自然だ。
因みに「司法取引:Plea Bargaining」と言えばアメリカの映画とかを連想するけど、実はアメリカのは「他人を売る」制度じゃない。
「自分の罪を正直に告白したら罪を軽くしてやる」ってモノで、「他人のコトをチクったらお前は見逃してやる」ってコトじゃない。
じゃないと、自分を見逃してほしい一心で他人に罪を着せる、なんてハナシもバンバン出てきそうだ。
なので、日本の司法取引はヤバい、という指摘は制度が始まる前から言われていた。
ここでもガラパゴスな日本の司法
要するに、ゴーン氏は無罪の可能性も十分にある。もちろんまだわからないけど。
こんな状況が海外にも伝わり、海外メディアは「日本の司法はおかしい」という論調一色になっている。
フランスだけじゃない。アメリカの世界的経済紙WSJは社説で「ゴーン氏の扱いがおかしい」とかなり早い段階で指摘した。
そもそも有罪かどうかも決まってない段階で、なんで世界的な大物経営者が独房でずーっと拘束されたまま、家族とも接見できず、ほとんど日本語NGのゴーン氏が弁護士との面会時に日本語以外でしゃべってはダメ、とか…
日本の司法制度の大きな問題点として昔から言われてるのが、99.9%とも言われる異常に高い有罪率。
つまり、逮捕されても裁判の結果が出るまでは犯罪者としては扱わない(推定無罪)という、先進国では常識となっているこの原則をほとんど無視しているというワケ。
そりゃ99.9%犯罪者であれば、0.1%の確率を考えるのは面倒、ってことになってしまう。
そもそも、まともに裁判が行われてるのかが疑われてしまう。裁判やる前から結論が出てるんじゃないのか。有罪率99.9%、とはそういうこと。
今回、こうした「ガラパゴスな日本の司法」の問題点が、ゴーン氏という大物の逮捕で改めて海外メディアから批判されている。
さっき紹介したWSJの社説では、これは(人権に問題があると言われている)中国の話か、いや、なんと日本の話だ、との書き出しで思いっきり叩かれている。
ただでさえ日本の司法は問題ありまくり、なのに、これに加えて結局ゴーン氏は無罪だった、なんてことになれば目も当てられない。
結局最後は…「記者クラブメディア」
と、日本の司法の問題点を紹介してきたけど、問題は司法だけじゃない。
例によって「記者クラブメディア」の問題点を最後に。
今回のゴーン氏逮捕の報道。いつもの日本の犯罪報道同様、逮捕→即、犯罪者扱いは、今回も変わらない。
逮捕当日から、「ゴーン容疑者」「ゴーン容疑者」の連呼にはうんざりしてしまう。
確かに肩書は容疑者に違いないけど、日本では容疑者、イコール、犯罪者。なんたって、有罪率99.9%だ。
それを証明するように、この容疑者呼ばわりには例外がある。
「大物」政治家や「大物」経済人に、(大手事務所所属の)「大物」芸能人。こういった「大物」に、大手メディアは弱い。
なので、本来なら容疑者呼ばわりされる筈のアノ芸能人が「○○メンバー」なんて呼ばれたこともあった。
この「理論」からいくと、ゴーン氏はもっと大事に扱われないとおかしいけど、多分ゴーン氏の有罪は確定だ(から何やっても問題ないだろう)、と思ったのだろう。
それと、これは単にボクの推測だけど、ゴーン氏が日本人経営者だったら、もう少し違う扱いだったかも、と思わないでもない。
一方、西川社長と日産本体の報道は、ゴーン氏個人に比べてメチャクチャソフトだ。
西川社長逮捕、なんてテレビで一切言ってない。なぜか。日産はメディアにとって大スポンサーだから。
そのトップが西川社長だ。有罪が完全に確定するまで、まず悪く言うことはないだろう。失脚すれば、一気に手のひら返し、だろうけど。
司法に問題を抱える国は、なにも日本だけじゃない。
アメリカだってそう。いろんな問題が指摘されている。
だけど、司法に問題がある国では必ずと言っていいほど、その問題点をメディアが追及、徹底的に指摘する。
だからその報道を見た国民が問題点に気づき、声を上げる。
けど、日本のメディアは違う。日本の大手メディアは例外なく、問題を抱える司法から記者クラブ経由で情報をもらい、それをそのまま報道する。
つまり、一方的に司法側の都合のいい情報をそのまま垂れ流し。
海外ではこれを「報道」とは言わない。ただの「広報」だ。
日本の「記者クラブメディア」の問題点が、ここにも。
今まではそれで良かったかもしれない。日本国内だけのハナシだったから。
ところが、今回は違う。
ゴーン氏は大物経営者。しかも「ガイジン」だ。日本の常識は一切通用しない。
仮にゴーン氏の無罪が確定すればどうなるか。彼は徹底的にやるだろう。繰り返すけど、日本の常識は一切通用しない。
日本人のように泣き寝入りなんて、絶対にしない筈だ。
東京地検は、日産は、そしてさんざん犯罪者扱いしてきたメディアは、いったいどんなゴーン氏の反撃を喰らうのか。
日産(と三菱)はさっさとゴーン氏を会長職から切ってしまったけど、ルノーは「推定無罪」をしっかり守っている。
ゴーン氏の会長職はそのままで、臨時の会長代行を置く、という措置をとっている。
これが世界の常識、だ。
日本のメディアはそんな基本的なことも考えずに記者クラブ経由の情報を垂れ流しで、それを基準に物事を判断するので、ルノーの臨時取締役会の直前に「ルノー、ゴーン会長を解任へ」と思いっきり誤報をぶっ放していた。
そして、当然のようにゴーン会長は留任となり、これまた当然のように「記者クラブメディア」は、この誤報について一切謝罪も訂正もしていない。
いつにも増して長くなってしまった。
そして「ほぼナイ!」でもこの問題、半ばヤケクソ気味で喋ってしまった。
それくらい、メチャクチャなハナシだ、というコトでご理解を。
因みにお気づきの方もおられると思うが、今回ボクは大手メディアへの抗議の意味を込めて、あえて「ゴーン容疑者」とは書かずに「ゴーン氏」としている。
ささやかな抵抗。
イサ&バイリン出版 解説兼論説委員 合田治夫
“ゴーン逮捕に海外から疑問の声:日本の司法(とメディア)が問われていること(2018.11.28配信分レビュー:その1)” に対して1件のコメントがあります。
コメントは受け付けていません。