2017.07.26配信 ほぼナイ!HEADLINE その2 レビュー
<「危険水域」に入った模様です>
森友・加計と相次ぐ疑惑に、閣僚の失言等が重なり、「一強」と言われた安倍内閣の支持率急落が、各社世論調査で相次いで発表されています。
森友問題に加計問題と総理周辺に対する疑惑が相次ぎ、それに対する官邸の対応にも批判が集まった安倍内閣。加えて閣僚の国会内外での言動も問題視され、発足以来高支持率を維持してきた安倍内閣の支持率が、マスコミ各社の世論調査の中にはついに30%を切るものも出てきました。
内閣支持率は30%を下回ると「危険水域」と呼ばれ、歴代内閣を見ても政権の維持が難しくなり、内閣総辞職に追い込まれたケースが多くあり、安倍内閣最大の危機との声が上がっています。
(以上 HEADLINE 2017.07.26)
< ほぼナイ! レビュー動画(Vol.25):【 見逃し配信を視聴 (YouTube)】>
『ココがヘン!ニッポンのニュース:安倍内閣支持率急落の理由』
<参考:ニューズウィーク日本版> 安倍改憲シナリオ、支持率下落で自民内に異論 政権維持に解散も
歴代の内閣と比べても、安倍内閣は支持率は高いレベルで推移しており、歴代最長の在位日数も十分狙える状況で、典型的な長期安定政権「だった」。そう、「だった」筈なのだが、それがわずか数カ月で状況が一変した。
森友・加計と総理及びその周辺を直撃する疑惑が相次いだ他、複数の閣僚に加え与党自民党議員のスキャンダルが相次ぎ、ついに内閣不支持率が、これまで内閣発足以来内閣支持率を上回ることが一度もなかったが、マスコミ各社の世論調査で上回る数字になってきている。この現象は典型的な「落ち目」の内閣にみられるもので、一度支持率を上回った不支持率が再び低下し、内閣が人気を取り戻すことは過去にほとんどなかった。だからこそ、メディアは「安倍内閣の危機」、「解散総選挙か」と騒いでいるのだ。
本心でそう思っていたかどうかは別として、安倍内閣の持続する高い支持率と連勝を続ける選挙結果については「安倍内閣や自民党が国民の絶対的な信任を得ているワケではない」と、判で押したように当の閣僚や自民党議員は発言してきた。
それを後押しするかのように、メディアや専門家も口を揃えて「安倍内閣や自民党が人気があるのではなく、野党(特に民主→民進党)が不人気なのだ。」「自民や安倍内閣はそれほど支持されていない。消去法で残っているに過ぎない」と説明している。
更にそれを裏付けするように、安倍内閣や自民党の支持率を問う世論調査で支持理由を問う設問に対しての回答は、「野党よりマシ」「他に任せられる人がいない」といった消極的理由がその上位を占めている。
メディアに焦点を当てている「ほぼナイ!」では、政治解説の類は既存メディアに任せ、ほとんど触れていない。
まぁご要望があればいくらでもしゃべりますけど、他のメディアで言ってるようなことを言っても意味がないと思うし、それは「ほぼナイ!」の趣旨に反するので、あえてセーブしている。
さて、『安倍内閣支持率急落の理由』だが、どの政策がネガティブに作用したかとか、政治的な要因は正直よくわからない。
ホントはいろいろ挙げられるが、どれも何故「急に」支持率が下がり、逆に不支持率が上がったのかをうまく説明できるものはない。
だが、ここで「ほぼナイ!」的視点。この数カ月、メディア報道を見ていると明らかに変わったものがある。
それが「安倍内閣や与党に対するネガティブな報道」だ。圧倒的に増えたのである。今年の4月以降、森友・加計問題にはじまり、稲田元防衛相に今村前復興相、あと結局辞めはしなかったが、先日の内閣改造で前評判通り?フェードアウトした金田元法相と、次々出てくる問題大臣に加え、「ハゲー!」で名を売った豊田議員、「ミスター重婚」中川議員、「ゲス不倫」宮崎元議員と挙げるとキリがない。
しかし、閣僚や与党議員の問題や不祥事はどの政権でも大なり小なり出てくるものだ。安倍内閣で目立ったのは、今回の「ほぼナイ!」配信のメインテーマである、縁故主義・依怙贔屓(えこひいき):Nepotism / Cronyism だ。トランプ政権と同じだが、トランプ政権の場合、身内の重用、つまり Nepotism が特に問題視されている一方、安倍政権の場合はアッキー(安倍昭恵総理夫人)の存在もあるが、それよりむしろ Cronyism が目立った。つまりは「お友だち」のひいきだ。自分に近い議員の重用(稲田氏や萩生田前官房副長官)もそうだし、「腹心の友」とまで総理が公言する加計氏は文字通り「お友だち」だ。
こういった問題をメディアが報じることで、確実に内閣は国民の信頼を失い、支持率は低下する。
それがわかっているから、政権側はメディアに圧力をかけ、政権にネガティブな報道をさせまいとする。
だが、これは大した問題じゃない。誰でも、自分に不利なことは言ってほしくない。世界のほぼ全ての政権が、自国のメディアにあの手この手でプレッシャーをかけている。問題は受け手、つまり圧力をかけられるメディアの姿勢だ。
6月、つまり前回の「ほぼナイ!」では、キーワードとして “Watchdog Journalism” をご紹介した。日本語訳はない。そもそも日本(のメディア)には存在しないものだから。Sushi, Tempra の逆バージョン。文化的にその国に無いものはダイレクトに訳せない。
Watchdog は「番犬」だ。強いて直訳すれば、番犬ジャーナリズム。つまり、権力に対する番犬としてジャーナリズムが機能するということだ。権力監視ジャーナリズム、といったところか。
「番」と言えば、日本のジャーナリズムではおなじみの「番」がある。「番記者」だ。特定の人物のみを専門に密着取材する記者を指す。
だが、Watchdog どころか、日本の「番記者」は取材対象を監視するのではなく応援するのが特徴だ。それどころか、取材対象が出世すると、その「番記者」も社内で出世したりする。まぁ、海外のジャーナリズムではありえない。
だが、日本のメディアは、こんな仕組み(「番記者」制度)はおかしい、(批判を伴う)まともな報道ができない、とは考えない。
番記者はいいのだが、取材対象と関係が深くなりすぎて批判の矛先が鈍ってはいけない。だから、取材対象との距離感が重要になるはずだが、そういう発想が、日本の大手メディアは決定的に欠けている。発想が会社員なので、得意先との付き合い方と取材対象との付き合い方を混同されているようである。
「安倍内閣支持率急落の理由」。ボクの答えは「メディアがネガティブなことを報じるようになってきた」から。
だが、まだまだ、メディアは伝えきれていない。メディアがあえて目をつぶっている、あるいはあえて深追いしないハナシは、例えばネット上にはたくさん転がっている。それが証拠に、第一次安倍政権時、メディアは当時の問題大臣を連日厳しく報道していた。
現在はそれよりもっと多くの追及ネタがある。当時は「モリ・カケ」なんてなかったし、アッキーも目立ってなかった。
一方、当時の塩崎官房長官は、さしたる根拠もなく「史上最低の官房長官」と揶揄された。因みに何故、塩崎官房長官がメディアに叩かれたかというと、当時のメディアと対立したからだ。昔も今も、自分たちに不利な存在となる政治家のことは徹底的に悪く報じる。ここはずーっと変わっていない。
そして、安倍内閣は崩壊した。当時の安倍内閣の退陣は安倍総理の腹痛、という説明が多いが、それは正確ではない。度重なる閣僚のスキャンダルもあって直前の参院選で惨敗し、政権の求心力を失ったところ、安倍総理が体調不良を理由に突然辞意表明に至った、というのが正しい。
歴史は繰り返す。メディアが徹底的にやれば、安倍内閣は再び崩壊する可能性が高い。
だが、今はまだ、メディアが政権に「忖度(そんたく)」している。“Watchdog Journalism” を標榜する海外メディアではありえないハナシだ。
「ほぼナイ!」ではまだまだ、そんなメディアが「ほぼ」取り上げ「ナイ」ネタを取り上げていく。
因みに海外のメディアは、このメディアの「忖度」が理解できないので、一連の「忖度」を “Son-tack” と報じた海外メディアもあるくらいだ。これを日本独特の文化、と喜んでいいのか。
最後に。現在の安倍内閣が強いのは過去の失敗に学んだからだ、とよく言われる。確かにそうだ。メディアの批判で政権を失った(と恐らく分析している)安倍政権は、メディア対策に注力した。これも海外では当たり前の話だ。不利な情報を伏せて、有利な情報を流す。
これも「ほぼナイ!」で何度も取り上げている、情報管理・操作:Spin Control だ。Spin、というくらいだから、話のすり替え、と捉えるとわかりやすいだろう。これも善悪の問題ではない。人は誰しも他人に良く思われようとする。当然だ。
だから、海外のジャーナリストは、取材対象から受け取る情報には全て Spin がかかっている、という前提で取材を進める。
だが日本のメディアは、記者クラブ経由の情報を、ほぼそのまま流す。その方がラクだから。
安倍内閣の 情報管理・操作:Spin Control は、諸外国の政権のものと比べると、Spin のレベルはそれほど高くない。そのレベルが高くないのは、日本のメディアのレベルが低いので勝手にクルクル回ってくれるから、あえて高度な Spin をかけないのか、それとも現在がレベルのピークなのか。
もし安倍内閣にこれ以上の「ノビシロ」がないなら、メディアがレベルを上げてくれば再び安倍内閣は崩壊するだろう。
イサ&バイリン出版解説兼論説委員 合田治夫