参院選で与野党大惨敗、勝者は吉本?!:主要メディアは主導権を失ったのか(2019.7.31配信分レビュー:その1)

- ほぼナイ! HEAD LINE -
<「吉本ファースト」が明確になりました>
宮迫博之

宮迫博之氏(写真:産経新聞)

7月21日に投開票が行われた参議院議員選挙は投票率が50%を下回り、48.80%と史上2番目の低さとなる低投票率を記録しました。

一方、7月21日の投開票日の前日には、いわゆる「闇営業」問題に揺れる吉本興業を巡る騒動が連日メディアをにぎわせる中で、渦中の宮迫博之氏が同じく謹慎処分中の田村亮氏と共に記者会見を行い、その模様が各メディアで生中継されるなど、大きな注目を集めました。
選挙期間中、メディア報道はほぼ吉本関連の話題に加え、ジャニー喜多川社長の死去といった芸能の話題が独占することになり、重要な筈の国政選挙は完全に脇に置かれた格好で、まさに「吉本ファースト」と呼ぶべき状況が日本社会で露わになったと言えます

(以上 HEADLINE 2019.7.31)

< ほぼナイ! レビュー動画(Vol.47):【 見逃し配信を視聴 (YouTube・part 01) 】【 見逃し配信を視聴 (YouTube・part 02) 】>

 

【ココがヘン!ニッポンのニュース】参院選で与野党大惨敗、勝者は吉本?!:主要メディアは主導権を失ったのか

<参考:朝日新聞デジタルTV選挙報道「ジャニーさん、吉本に取られ」平井IT相

「要請」という名の「圧力」にビビったメディア

年金問題や憲法改正など多くの政治課題を抱える中、参院選が終わった。というより、「終わっていた」という人も多いかもしれない。
半分以上の有権者が棄権したことを示す、文字通り5割以下の投票率が、国民の関心がいかに低い選挙だったかを物語っている。
そんな中、報道番組は相変わらず、選挙後に一斉に選挙の総括をはじめるけど、もちろん終わってからそんなことをやってもほとんど意味がない。
だったら、なぜ選挙前や期間中にやらないのか。
選挙報道の公平性、とかいうもっともらしい理由をテレビ各局は挙げてはいるけど、公平性を意識するあまり、結局報道しないのでは何の意味もない。
ほぼナイ!」で何度も言っているけど、報道の本来の役割の一つは、選挙の際の判断材料を視聴者(有権者)に提供し、多角的な視点を伝える事であって、報道しない、なんて選択はありえない。
海外メディアの主流の考え方は「完全な公平など(神様じゃないんだから)あり得ない」のだから「多様性を確保することで結果的に公平に近づけていく」ということだ。

それでも昔のテレビは、現在ほど選挙報道が少ないことはなかった。
その質はともかく、少なくとも今のテレビより、ワイドショーを含め様々な報道番組が、選挙が近づくと様々な政治課題を取り上げたり、候補者を追いかけたり、という事が行われていた。
繰り返すけど、質はともかく、少なくとも量はそれなりに、あった。
報道の多様性、という観点からすると、とにかく様々な情報がメディアで伝えられ、報道量が増えることは良いことだ。今のように肝心の選挙期間中に報道量が減るより、絶対に良い。
昔のテレビ、とさっき言ったけど、実はそんなに昔じゃない。例えば2009年の政権交代選挙(総選挙)の時なんか、連日選挙報道が行われていた。
特に目に付いたのが、普段からお堅い政治報道を続ける報道番組だけじゃなく、ワイドショーでの政治報道が目立った。
当時はその報道の質が批判もされたけど、しつこいようだけど、大事なのは報道の量であって、質ははっきり言ってどーでもいい。
なぜなら、質の判断は受け手である視聴者がするしかないので、質の低い情報は受け手から敬遠されることになり、最終的に淘汰されることになるから。
そうならない(淘汰されない)かもしれないけど、それは少なくともメディア側が勝手にフィルタをかけて自粛するような問題じゃない。
メディア側が報道の質を勝手に判断してフィルタをかける(ことで報道量を結果的に減らす)ということは、受け手の視聴者の知る権利を奪うことになる。
ついでに言うと、これはメディアの方が受け手の視聴者・読者より賢く情報の判断ができるという前提から来るもので、要するに「メディア側の思い上がり」でしかない。

という事で、10年前までは多かった選挙期間中の選挙報道が、どんどんその量が減っていった。
そのきっかけは、明らかに自民党から各放送局(在京キー局)に対して行われた「要請」だった。
「報道の公平性を十分に配慮して番組を作って欲しい」という一見当たり前に思えるその「要請」は、当時民主党による政権交代を経験し、野党に転落する屈辱を味わった自民党にとって「自民党に批判的な報道をするメディア」は敵でしかなく、しかし国民に対する影響力が強いメディア(特にテレビ)は絶対に味方にしなければならない存在だった。
そんなテレビメディアに対し「公平」という正論を盾に、自分たちへの批判的な報道を減らそうとするのは、別に自民党だけの考えることじゃない。
影響力のあるメディアの報道内容を自分に有利な方向にコントロールしよう、なんてどこの国でもやっている。
ある程度メディアが発達している国なら、どこでも。そしてそのほとんどは、当時の自民党が出した「要請」のように、パッと見は「圧力」じゃないように見えるカタチで行われる。
露骨な「圧力」はメディアや国民の反感を買うだけで、決してウマいやり方じゃない。
問題は「要請」を勝手に「圧力」と捉え、ビビって「自粛」するメディア側だ。
一部の独裁国家(=表立って政府に逆らえない国)を除き、世界でもトップクラスの言論の自由が保障されながら、政府批判を自主的に減らすメディアなんて、日本以外どこにもお目にかかれない。どこにも。

そんなワケで、安倍政権誕生以降、勝手にビビったテレビ局のおかげで、テレビから政府批判はみるみる消えていくことになった。
選挙報道も一気に減少し、残ったのは「事実」という名の、僅かながらの政府発表の情報、そしてあとはほぼ「自粛」という、独裁国家さながらの報道が、近年の日本のテレビにおける政治報道だ。
そしてその結果、投票率は低下し、国民から政治への関心は、以前にも増して失われている。
これを食い止めるには、テレビが再び多様な政治報道で国民の関心を呼び起こすしかない。

別にテレビ以外のメディアが頑張ればいいのだけど、今のところ、国民に圧倒的な影響力を持っているメディアは、何のかんの言っても、やっぱりテレビ。
ネットが影響力を持ちつつあるとか、テレビを抜いた、とか言っても、それは若年層を中心とした一部であって、日本国民全体で見たら、やはりテレビメディアの影響力は圧倒的に強い。

参院選の勝者は自民党だったのか

選挙結果は事前にメディアが流した予測がほぼ当たった。自民党が多数を占める選挙結果。
ついでに言うと、事前にバンバン選挙の予測を行い、それが選挙期間中の選挙報道の主流を占めるのは日本くらいで、諸外国の選挙報道は、予測は控えめ(もしくはゼロの国もある)で、選挙報道のメインはあくまで選挙の争点や現時点での国が抱える政治課題と言った、投票の判断材料を多角的に報じる。
更に言うと、その結果、どうしても政府批判や与党批判が多くなる、というのが本来の姿だし、だからこそ政府与党はメディアにあの手この手の「圧力」をかける。

さて「ほぼナイ!」で言ったように、確かに数を見れば与党自民党が多数だったワケだけど、自民党が勝ったとはとても言えない。
なぜなら投票率は半数以下の50%割れ。自民党(候補者)に票を入れなかった有権者の方が、入れた有権者の数よりはるかに多かったのだから。
ましてや野党はそんな自民党より更に少なかったワケで、こっちはもっと勝ったとは言えない状況。
投票率が50%を切った時点で、その選挙に勝者はなくなる、と言っていい。与野党とも大惨敗だ、とボクが言ったのはそういうコトだ。

それよりも有権者の関心は、選挙よりも報道量がはるかに多かった芸能ネタ、特に選挙期間中の後半で圧倒的な注目を集めた吉本興業問題にあったとしか思えない。
だから、この国では政治や選挙より芸能ネタの方がはるかに注目を集めていたし、この国は「吉本ファースト」だったのだ。

それでもあえて、政治の中で勝者を探すと…

今回の選挙では、テレビ離れが進んでいる、と言われる若年層(10~20代)の投票率が低かった。
全体ですら過半数割れの5割弱だったのが、それをはるかに下回る30%台にとどまり、今回の低投票率に追い打ちをかけることになった。

山本太郎れいわ新選組代表

山本太郎れいわ新選組代表(写真:毎日新聞)

そんな中でも、選挙後に注目を集めることになった存在が、新たに2議席を獲得した山本太郎前参議院議員率いる「れいわ新選組」と、新たに1議席を獲得した「NHKから国民を守る党(N国)」だ。
選挙後に、というのがポイントで、この2党は衆院選以上に政党色が強く出るため、無所属や小規模政党や政治団体には厳しいとされている参院選で、現有議席のないほぼゼロからのスタートで、Mainstream media (MSM) 大手メディア からはほぼ無視され、露出もほとんどない中で、SNSなどのネットメディアのみで地道に支持を拡げていくという戦略が見事に奏功することになった

この2党の躍進は、裏を返せばテレビや新聞と言った MSM に相手にされなくても、国政レベルで十分闘えることを証明した、という点で画期的だったとも言えるけど、もちろんそれでも2議席や1議席では政権獲得には到底至らないし、国会の中の影響力も限定的だ。
因みに、N国がターゲットにしているNHKは所属議員が5人以上いない政党は「日曜討論」に出さず、国政政党として認めないという基準を設けているけど、やはり MSM で取り上げられないと政治勢力として大きな影響力を持つことはやはり難しい、という事も、改めて明らかになったと言える。

やはり「たかがテレビ、されどテレビ」なのだ。メディアの力は、やはり大きい。

イサ&バイリン出版 解説兼論説委員 合田治夫

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