ノーベル賞:生粋の日本人受賞を黙殺するメディア(2017.10.25配信分レビュー:その1)

<今年唯一のノーベル賞受賞です>
川崎哲ICAN国際運営委員

川崎哲氏(公式ブログ画像)

今年の ノーベル平和賞Nobel Peace Prize は、ICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)が受賞しました。ICANの国際運営委員は川崎哲(あきら)氏が務めています。

International Campaign to Abolish Nuclear Weapons; ICAN(アイキャン:核兵器廃絶国際キャンペーン)は現在、世界101カ国で468の提携する構成組織が活動しているキャンペーンの連合体で、各国政府に核兵器禁止条約の支持を呼び掛けています。
今回、その地道な活動が評価されてのノーベル平和賞受賞となりました。
ICANでは日本人の川崎哲氏が国際運営委員を務めており、川崎氏は近年連続していた理科系のノーベル賞受賞を逃した中で、今年唯一の日本人ノーベル賞受賞者ということになります。

(以上 HEADLINE 2017.10.25)

< ほぼナイ! レビュー動画(Vol.28)【 見逃し配信を視聴 (YouTube)】>


『ココがヘン!ニッポンのニュース:ノーベル賞:生粋の日本人受賞を黙殺するメディア

<参考:毎日新聞ノーベル平和賞:ICAN川崎哲さんが報告会

ノーベル賞で「バカ騒ぎ」するメディア

毎年大盛り上がりするノーベル賞報道。受賞者どころか受賞者の家族まで取材対象になり、受賞者夫人のファッションチェックまでやりだす始末。
ほとんど(メディアは)国を挙げてのお祭り状態で、気の毒なことに毎年受賞候補というだけで、作家の村上春樹氏は毎年「受賞を逃す」などと、まるで落選者のように扱われている。
ご本人が別に欲しくないし興味もない、と表明しているにもかかわらず。

ご存知のように今年のノーベル賞受賞者は、このところ連続受賞していた理科系のノーベル賞受賞がなかったことで、注目が集まったのが作家の カズオ・イシグロKazuo Ishiguro 氏。
英国人のイシグロ氏は、日本生まれとはいえ、幼い頃にイギリスに移住、英国籍を有するれっきとしたイギリス人だ。
ついでに、日本語も普段お話にはならないし、ご本人によるとスピーキングは「スコシダケ」との事で、ガイジンアレルギーの強い日本社会では日本人と認められないどころか、仮に日本に住むとなると差別対象になるのではないか。
ところが、さすがノーベル文学賞受賞者、今回もバンバン日本の報道で取り上げられ、イシグロ氏を紹介する枕詞には「日本出身の」「日本文化に影響を受けた」などとムリに盛り上げ、報道によってはイギリス人であることを省略までして、まるで日本人受賞者のような扱いだった。

中村修二教授

中村修二教授

日本のメディアのノーベル賞「愛」は、数々の異様なエピソードを生む。
3年前には中村修二氏が物理学賞を受賞したが、受賞時の中村氏の肩書が米カリフォルニア大サンタバーバラ校教授だったことからもわかるように、中村教授は受賞対象となった青色LEDの研究時に、日本を半ば追われる形で渡米した、日本社会に「追い出された」研究者だった。当時中村氏を擁護しようとするメディアは皆無で、それどころか中村氏を誹謗する報道すらあった。
それがノーベル賞受賞となると、メディアはこぞって中村教授を称賛、まるで過去のことなどなかったように、まさに絵に描いたような手のひら返しだった。
更にこの中村教授、日本にすっかり嫌気がさしていたのか、さっさと米国籍を取得していて、ノーベル賞受賞時には既にアメリカ人だったけど、まぁそんな経緯はほとんど無視、もちろん過去の報道を訂正することもなく、中村教授を日本人受賞者にカウントするメディアが続出した。

このように、日本のノーベル賞好きは今年に限った話ではなく、毎年大盛り上がりなのだが、欧米ではこんなには盛り上がらないらしい。
アメリカなどは毎年複数の受賞者が出ており、イチイチ盛り上がっていると他の報道ができなくなるのでそんなに騒がない、ということらしいが、真偽のほどは定かではない。
とにかく、日本のようにメディアが騒ぐことはない。

「日本人受賞者ゼロ」というウソ

そして今年も、ノーベル賞ウィーク、と呼ばれる各賞発表も終わり、今年は、イシグロ氏もホントは日本人じゃないこともあってか、例年より静かに「バカ騒ぎ」は終わった。
そして驚いたことに、大手メディアの多くがご丁寧に「残念ながら今年の日本人ノーベル賞受賞者はいらっしゃいませんでした」などと総括している。
これはウソだ。少なくとも、イシグロ氏まで日本人扱いする勢いの、日本のメディアの基準からすると。
今年の日本人ノーベル賞受賞者は一人。平和賞受賞の川崎哲氏だ。
平和賞はICANで、川崎氏ではない、という反論もありそうだが、理科系の賞だと研究チームが受賞して、受賞者が複数となることも珍しくないし、それで受賞の価値が下がることもない。
川崎氏はICANの主要メンバーの一人であることは間違いない。それに川崎氏は疑いようもなく、生粋の日本人だ。
普段の日本の報道なら、当然のように例の「バカ騒ぎ」となって不思議はない。

だが、川崎氏を大々的に扱うメディアは少ない。今回参考で毎日新聞の記事をご紹介しているが、毎日新聞は今回明らかに少数派だ。
ここにも、メディアの政府に対する「忖度(そんたく)」が透けて見える。

川崎氏をスルーするメディアの「忖度」

なぜメディアは川崎氏をほとんど取り上げず、スルーするのか。
考えられることは、一つしかない。
それは、川崎氏やICANの活動を大きく取り上げたくない、ということ。

ICANは核兵器禁止条約を世界に広めるのが目的の団体。その活動がノーベル委員会に評価されたわけだ。
この核兵器禁止条約、現時点では国連加盟の193ヵ国中167ヵ国が賛成、と文字通り世界の大部分が賛成している。
で、残りの26ヵ国は、当然と言えば当然だけど、アメリカをはじめとする核保有国。
そりゃそうだ。核兵器保有国が禁止条約に賛成したら、「じゃあ、今お前が持ってるものはなんだ」ってことになっちゃう。
核兵器保有国は良い。いや、ちっとも良くないけど、仕方がない。
問題は、核兵器なんか持ってないのに、この禁止条約に反対している国。
その「理解しがたい」国というのが、アメリカの同盟国など米軍、つまりアメリカの核に守られてる国々。
もちろん、日本もその中に入る。そして、条約に賛成する大多数の国から最もブーイングを浴びているのが、日本だ。
日本は唯一の被爆国じゃないか、そんな日本がなんでこの条約に賛成しないんだ、なんでいつもアメリカの言いなりなんだ、と。

という、日本が条約に賛成してないということも含め、そもそもこの一連の話がほとんどメディアで話題になってない。
日本政府が世界のブーイングを浴びている、ってことであえてここまでスルーしてきた(としか思えない)。
なのに、ここで川崎氏(のノーベル賞受賞)を取り上げてしまったら、当然ICANについて触れなきゃいけなくなり、そうなると日本政府の事も…

「今年のノーベル平和賞はICANが受賞しました。」
以上。終わり。
あ~あ、盛り上がんないけど、今年の日本人ノーベル賞受賞者は、ナシってことで。
いいんじゃない、どうせICANなんてほとんど知られてないし。
だって、ヘタに取り上げて騒ぎが大きくなったら、また政府に面倒なこと言われそうだし。目つけられたら厄介だもん。
これまでICANとか核兵器禁止条約とかシカトしといて、良かった~

以上が多くのメディアの頭の中、かどうかは定かじゃないけど、ま、大方こんなところだろう。
別に核兵器禁止条約に反対なら反対で、それをちゃんと報道すればいいだけの話だと思うんだけど、そうじゃなくて、まるごと「なかったことにする」のはいつもながら、フェアじゃない。
こんな報道メディア、日本だけ。まさに今年話題の、政権に対する「忖度」そのもの、だ。

イサ&バイリン出版解説兼論説委員 合田治夫

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