<JASRACに再び苦言です>
坂本龍一氏

坂本龍一氏(Ⓒ2016 Kab Inc.)

JASRAC(一般社団法人日本音楽著作権協会:Japanese Society for Rights of Authors, Composers and Publishers)が映画音楽の上映使用料の引き上げと映画館からの使用料徴収を決定した件で、音楽家の坂本龍一氏がJASRACの姿勢を再び批判しています。

1988年の米アカデミー賞作曲賞をはじめ、数々の世界的な音楽賞の受賞や多種多様な音楽活動の成功など、幅広いジャンルの音楽活動で知られる坂本氏。近年では反原発などの環境問題への提言や活動など、社会活動家としても知られているだけに、他の音楽家以上にその発言に影響力がある存在となっています。
今回、映画音楽の上映使用料を引き上げ、従来は徴収していなかった映画館からの使用料徴収を決定したJASRACは、この決定を発表した記者会見の場で坂本氏のコメントを紹介しましたが、その直後から坂本氏の所属事務所がTwitterなどで、コメントを紹介したJASRACに対する違和感を表明していました

(以上 HEADLINE 2017.11.22)

< ほぼナイ! レビュー動画(Vol.29)【 見逃し配信を視聴 (YouTube)】>


『ココがヘン!ニッポンのニュース:上映使用料引き上げ問題:”教授”を利用したJASRACの「スピン」とメディア

<参考:BuzzFeed日本語版JASRAC、映画音楽の上映使用料を引き上げへ 劇場側は「死活問題」と反発

JASRACが利用した”教授”の影響力

今回の上映使用料引き上げについては、多数の大手メディアが取り上げていたけど、扱いはそれほど大きいものではなかったように思う。
これで、以前ほぼナイ!」でも取り上げた、音楽教室からの著作権料徴収問題みたいに、JASRACと取られる側の対立みたいなわかりやすい対決の構図が見えてきて、具体的なバトルがはじまったりすると、野次馬根性丸出しでメディアも盛り上げてくるだろうけど、まだ取られる側(今回は映画館側)の動きが目立ってきてないので、メディアもとりあえず静観、みたいなカンジだろう。

ということで、ボクもこの問題、当初はそんなに気にしなかった…と思ってたら、早速気にすることにならざるを得なくなった。
なぜなら、ボクがフォローしてる坂本氏のマネージャーのTwitterから気になる投稿があったから。
「劇場から徴収する方式がいいとは言ってないんだけどなぁ。」
確かに、坂本氏がJASRACを擁護したり、経営の厳しい映画館からの使用料徴収を支持するとは思えない。ってことでこの話題をちょっと調べてみた。

それ以前に、なぜボクが坂本氏のマネージャーさんのTwitterをフォローしたりしてるのか。
何を隠そう、ってほぼナイ!」でも公言してるけど、ボクは坂本氏のファンである。単純な理由。
CDの類はもちろん、書籍やWEBで細かく発言をチェックしたりと、坂本氏のファンの中には結構いるであろう「ディープな」ファンの一人だ。
因みにファン歴は小学生の頃(「戦メリ」公開前後)から一度も途切れず…なので、かれこれ35年?!我ながら結構長いなぁ…:-o
ということで、以下、坂本氏の呼称は、コレを書いてて最初からずーっと違和感があるし、ファンの間での長年の愛称である、”教授”とさせていただく。

教授の事は書き出すとホントに止まらなくなるので、知らない方は勝手に調べて下さい。
最近はあんまり聞かなくなったけど「世界のサカモト」とか、まぁ教授が音楽界でかなりの影響力・存在感があることは、ファンのひいき目を差し引いても間違いない。
なので、話を本題に戻すと、JASRACとしては、教授の名前を「使って」自分たちの主張を補強したかったことは、想像に難くない。
「坂本氏も私たちの主張に賛同しているのです」と言いたいのだろう。だからこそ、記者会見の場で、わざわざ坂本氏のコメント、なるものを披露したのだ。
ところが、教授ファンの間で、教授がJASRACにずっと批判的なスタンスだったのはよく知られている(と思う)。過去に批判的なコメントもしている。
なので、今回の報道を見れば、あ、JASRACが勝手に教授のコメントをねつ造したか、都合のいい部分だけ切り取って出してるな、とすぐ気づく。
実際ボクもそうだったし。

今回JASRACがやったように、自分に都合のいいように情報を出してメディアが自分に都合のいい報道をするように仕向けるテクニックを Spin Control という。
時の政権などがよく使う手法で、このテクニックが発達しているアメリカでは Spin Doctor と呼ばれる専門家がいるほどだ。
JASRACは今回、教授のコメント、というものを使って Spin をかけてきたのだ。
そして日本のメディアは、今回に限らず、このスピンにめっぽう弱い。毎度毎度、みごとなほどクルクル回る。まさに芸術品級。

海外メディアでは当然だけど…

なんだかなぁ、と思いながら数日後、ボクの知る限りでは唯一、この問題について日本のメディアらしからぬメディアが現れた。
今回の参考ページとして紹介している記事を出した、BuzzFeedの日本語版だ。
BuzzFeedはアメリカのネットメディアで、日本語版も米国版と中身こそ違うけど、いい意味で本国アメリカのジャーナリズムの影響を引き継いでいるのかも。
そのBuzzFeed日本語版のSkype取材を、教授が受けた。ということを、これも教授マネージャーのTwitterで知った。
その記事がTwitterでも紹介されてるけど、コレ。

坂本龍一、JASRACに苦言 「襟を正して透明性の確保を」BuzzFeed日本語版

今回の報道で、BuzzFeed日本語版が見事だったのは、この2点

  1. 片方(今回はJASRAC)の記者発表だけを鵜呑みにせず、記者会見の場にいなかったもう一方の当事者(今回は教授)にも直接取材
  2. その上で双方の主張をフェアにほぼ同量扱う。つまり両論併記

まず 1. だけど、通常、日本のメディアの主流である記者クラブメディアは記者会見で出されたものを、まぁほとんどそのまま流して、終わり。
本来、会見する側に限らず、ニュースの当事者にはそれぞれの立場があり、自分に有利になるように話すものだし、それが当たり前。いわゆるポジション・トーク。
だからそれを考慮して、とにかくまた聞きとか引用じゃなく、お互いにかけてくるであろうスピンにひっかからないように双方から直接話を聞くことが極めて重要だ。
今回ニューヨークにいる教授は、記者会見にも出てなくて、一方的に「JASRAC側から紹介された」コメントがあるだけ。
で、BuzzFeedはニューヨークには行けないので、Skypeを使って直接教授に取材したのだ。

そして 2. も極めて重要なポイントで、このメディアにおける両論併記は オプエド・オプイドOpposite Editorial / Op-ed と呼ばれる。
双方の言い分を同じように重視する、ということがいかに大切かは、メディアじゃなくてもこの世の中では当たり前のハナシだというのはお分かりだろう。
BuzzFeedは教授への取材とは別に、JASRACのメディアへのブリーフィングをしっかり報じ、JASRACの主張を明確に伝えている。

BuzzFeed日本語版は、今回の報道で、見事にこの2つをやってのけた。ぐれーと!!
と書いてみたものの、こんなことで大騒ぎするのは実は日本くらいで、諸外国のメディアはみんなやってる、あるいはやろうと努力している。報道メディアのキホンのキ、なのだ。
だけど、クドいようだけど、今回の問題についてBuzzFeedのような報道をしたのは、ボクの知る限り、一社もない。
もちろん教授は現在に至るまで、今回の問題でBuzzFeed以外の直接取材は受けていない。

回る回るよメディアは回る
JASRAC許諾マーク

音楽著作物に表示されるJASRACの許諾マーク

もちろんJASRACの言うように、映画音楽に携わる人々の権利は保証されなければならないし、そうでないと映画音楽という文化を維持することはできない。
でも、これまでのJASRACの振る舞いを見てると、とてもミュージシャンひとりひとりに利益が還元されてるとは言い難い。
教授は「透明性を高める」というオトナな表現でオブラートに包んでるけど、平たく言えば、中抜きしてるタダの利権団体に成り下がってないか?ってこと。
今回のBuzzFeedの取材で教授が言うように、教授は是々非々で、としながらも、冷静に読むとJASRACを痛烈に批判していることがわかる。
JASRACの最大の問題は、国内の全ミュージシャンの著作権の一切を 独占Monopoly し、当事者であるミュージシャンの権利保護とは別の力学で動いている(ように見える)と、教授はたびたび批判してきた。
HEAD LINEでは「再び批判」としてるけど、再び、どころか、実は三度、四度、五度…業界内に居てあれだけ公然と批判できるのは、勇気以外の何物でもない、と思う。さすが教授。

そして、JASRACが公表した教授のコメントとされたものは、さすがにねつ造ではなかったものの、重要な部分を教授に伏せた上で手に入れた「だまし討ち」の結果だったことが教授の証言で明らかになった。
やはりスピンはかけられていた。そして、BuzzFeed以外のメディアはまんまとそれにはまり、今回も、回った。くるくる。
もう一度言うけど、JASRACから一方的に坂本氏のコメント、というのが出された際に、とりあえず教授にも直接話を聞かないと報道としては不十分だ、というのは判断されるべきだった。
別に教授のファンじゃなくても。
今回のBuzzFeedの記者さんは、教授の過去の(JASRACに対する批判的な)言動をご存じだったようだけど、それはボクのようにもともと教授の言動をフォローしていたのか、今回のSkype取材にあたって調べた上でのことだったのかはわからない。
ただ、どっちにせよ、記者と呼ばれる人はニュースの当事者全員への直接取材が大前提であるべきだし、JASRAC側のスピンくらい見抜くべきだ。

そんなジャーナリズムの基本であるべきことを怠り、記者会見の場での情報を鵜呑みし、そのまま報道してしまうのが、ほぼナイ!」で再三批判している、「記者クラブメディア」の最大の欠点の一つだ。
そんなことだから、いつまでたっても取材対象のスピンを見抜けず、毎度毎度同じように、くるくる、なのだ。
回りたければ勝手に回ってくれればいいのだけど、それによってわれわれ国民の知る権利は確実に阻害されている。
何故なら
記者クラブメディア」はクラブ外の取材を徹底的に排除する、情報の 独占Monopoly をやっちゃってるからだ。

なんでも独り占め、はいけません。みんなで仲良くシェアしましょうね。

イサ&バイリン出版解説兼論説委員 合田治夫