国際情勢激変で日本は置き去り:まるで「金魚のフン」な人々(2018.4.25配信分レビュー:その2)
<国際情勢が激変しています>
中朝首脳の電撃会談に続き、南北朝鮮会談、更に米朝会談など、相次ぐ歴史的なイベントが予定される中、日本が蚊帳の外に置かれています。
トランプ大統領の独断で、5月中の実現が確実視されている史上初の米朝会談の報道以降、秘密裏に行われた金正恩委員長の訪中、更にこれも史上初である北朝鮮指導者の訪韓と、歴史的な首脳会談が相次いでおり、日本政府の思惑通りに物事が進んでいるとは言い難い状況が続いています。
一方、米国の在イスラエル大使館のエルサレムへの移転も予定されている他、緊迫するイラン情勢など、世界情勢が激動する中、外交でのアピールを得意としていたはずの安倍政権は相次ぐ国内でのスキャンダルばかりが目立ち、日本側の希望で行われた日米会談も不発に終わった模様で、国際社会に存在感を示せない苦しい状況が続きそうです。
(以上 HEADLINE 2018.4.25)
< ほぼナイ! レビュー動画(Vol.33):【 見逃し配信を視聴 (YouTube)】>
『ココがヘン!ニッポンのニュース:国際情勢激変で日本は置き去り:まるで「金魚のフン」な人々』
<参考:リテラ> 「安倍首相はトランプから見捨てられた」と海外メディアが日米首脳会談を酷評!北朝鮮問題でも完全に置いてけぼり…
取り残された?!安倍総理
いま、北朝鮮がアツい。
例によって、(恐らく)思い付きで何の下準備もない状態でいきなり発表された米朝首脳会談構想。
アメリカと北朝鮮のトップ同士が会談、というのは歴史上はじめて。史上初、なんていかにもトランプの好きそうなことではあるけど、それにしても唐突だった。
米大統領とのサシで会談ってコト自体は、北がずーっと望んでいたけど、あまりに突然のハナシで金委員長自体、相当驚いて困惑している、という説が有力だ。
そしてそれ以上に驚いたかもしれないのが安倍総理。
世界のあちこちで事あるごとに、得意の「北朝鮮脅威論」を披露し、北朝鮮包囲網を着々と築いている、と多くのメディア報道で言われてきた。
そしてその「北朝鮮脅威論」の最大の理解者であり支援者、と言われていたのがトランプだった。
「安倍総理こそ、世界で最もトランプを理解し直接話ができる指導者であり、外交の指南役」というハナシは、安倍内閣が何度も流してきたPRだった。
それがいきなりの米朝直接対話。
まさに安倍総理の頭越しで急遽決まったこのハナシ、実現した上、会談がトントン拍子で進んで米朝和解、なんてことにでもなれば、「北朝鮮脅威論」は何だったのか、ってことになる。
かといって、武力衝突の危険性すら一時は懸念されただけに、和解が成立するとなれば「俺のメンツが潰れる」と安倍総理ひとりで騒ぐこともできない。
なので、安倍総理も表向きは「会談の成功を祈る」と言わざるを得ない状態だ。
そしてトランプ大統領の電撃決断を受けて、金委員長の極秘訪中や歴史的な南北首脳会談、と一気に北を取り巻く環境が変わった。
安倍総理周辺が必死でメディアに「日本は孤立していない」「ある程度織り込み済みだった」なんて情報をガンガン流している。
政府がメディアに対し、自分に有利な情報をあることないこと流すのは万国共通。
「ほぼナイ!」で何度も言ってきた「スピン:Spin Control」の一種と考えていい。
ただ素直に現状を見れば、どう見ても安倍総理の「北朝鮮脅威論」とは正反対の方向に物事は進み、世界はその動きを好意的に見ている。
方向は平和に進みつつあるんだから、当然と言えば当然。誰も安倍総理のメンツになんか興味はない。
日米首脳会談、そもそも焦点は何だったのか
それ以外にも、いや、それ以上に、北朝鮮情勢の変化と併せるようにほぼ同時に、「外交の安倍」「トランプの指南役」のメンツが潰れるような事態が起きていた。
日米の経済問題。中でもアメリカの鉄鋼業界を主要な支援者とするトランプが、鉄鋼関税の引き上げをぶち上げ、その対象国に日本を加えるという事態が発生。
もともと日本との経済関係に不満を露わにしていたトランプ、その一環で以前取り上げた「日本を殺人者呼ばわり」のハナシもあった。
別にトランプは何も悪くないけど、彼が言いたかったのは「日本との経済関係はアンフェアだ」ってコトだった。
そしてあっという間に、アメリカの友好国・同盟国の中で、鉄鋼関税を上げる、と言われたのは日本だけ、って事態に。
「ありゃ?アベちゃん、トランプのダチじゃなかったっけ?」
そこで事前の安倍総理訪米の焦点は、この経済のハナシだった。
アベちゃんはトランプを説得できるのか。できれば鉄鋼関税引き下げを勝ち取りたい。
不可能じゃないよね、なんせトランプに真っ先に会いに行ったし、「最大の理解者」だし、「指南役」だし。
ついでにTPPにアメリカを巻き込みたい。
最悪でもFTAのハナシは絶対避ける。
日米サシで経済交渉なんて最悪だ。
アメリカにスゴまれて、堂々と渡り合えるキモの座ったツワモノは、日本にそうはいない。
不利な条件をガンガン飲まされるのは目に見えてる。
だからみんなで話し合う、TPPがいい。アメリカとサシのFTAは絶対NG。
北朝鮮の話もあるけど、なんせトランプ vs 金正恩のタイマン(?)ってなっちゃったから、そんな表立ってデカい話が出てくる筈もない。
そもそも、日米でトランプが何を言ってても、その後の米朝でトランプの気が変わったり、アベちゃんに言われたことを忘れて、全然違うハナシになる可能性もある。
実際、これまでもトランプはそんなことが何度もあった。
拉致問題も日本にとって重要だけど、結局は日朝間の問題だし、いくら「マブダチ」でもトランプのできることには限界がある。
結局は「他人事」なのだ。トランプの最大の使命は、現在北に拘束されている3人のアメリカ人を帰国させること。
だからこそ、今回の日米首脳会談の注目は、経済。
といった話が流れる中、安倍総理は日本を旅立った。どうなる、日米首脳会談。
いつ変わった?総理訪米の焦点
そして首脳会談は終わった。二人並んで会談直後に行われる、恒例の共同記者会見。
まぁ、生中継とかもあるし、大体こういった場では、会談自体が不調に終わってたとしても、取り繕って無難な発言に終始する。
で、その言葉の裏に隠された微妙なニュアンスの違いとかを読み解いたりするのが通例だけど、トランプに通例は当てはまらない。
常識を超える男、ドナルド・トランプ。空気なんか、読まない(読めない、のかも)。
そして案の定、トランプはやってくれた。もぉ予定調和とか、ぶち壊す、ぶち壊す。
結果はご存知の通り、経済分野で見事決裂。鉄鋼関税引き上げは、結局撤回されず。
事前に、TPP復帰の可能性も、とか言ってた記者クラブメディアもあったけど、トランプは「TPPなんかイヤ(”I don’t wanna go back TPP.“)だ、二国間(のFTA)がいい」とまで明言。
凄いな、やっぱこの人(トランプ)は。一応「我が友、シンゾー」とか言ってるけど、まぁ「サブイボ」モノで、社交辞令感がテンコ盛り。
心なしか隣のアベちゃん、顔が引きつってる。無理もない、ここまではっきり言われたんじゃ、ねぇ。
こりゃ、さすがの大手メディアも会談は失敗、と言わざるを得ない。
焦点の経済面で完全な失敗を伝える現地のレポーターたちの元気も、心なしか、ない、ようにしか見えない。
し・か・し。
転んでもタダでは起きない記者クラブメディア。即座に繰り出す必殺の「論点すり替え」。
なんと安倍総理訪米の最大の焦点は、米朝会談に向けた北への圧力維持の確認と再度の拉致問題への協力の取り付けだった、と解説しだす。
だから、この2つで満額回答を得た安倍総理の訪米は大成功 😆 と称えるメディアまで出現。
まぁこれはさすがにホメ殺しにしか聞こえないけど。
「え?いつからそんな話になったの?! 😯 」
ボクは驚いた…ってのはウソで、まぁいつもの手だな、ってカンジでしたけどね。ホントは。
「互恵」と「相互」は違う
ところで、最近トランプが貿易問題を語るとき、やたらと口にするWordがある。
それが今回の会見中にもバンバン出てきた「Reciprocal:相互的」。
そこで記者クラブメディアの十八番、意図的な誤訳発動。
このトランプが口にした “Reciprocal” を、トランプは「互恵的」と言っている、と言い始めた。
確かに英和辞典で “Reciprocal” を調べると、「互恵的」と載っている。もちろん「相互的」も。
普通の日本人の大多数が「互恵」と「相互」(って、そもそも日常会話で「互恵」「相互」なんて言わないと思うけど)の区別をあまりしてないかもしれないけど、実は結構違う。
特に貿易のような利害関係が対立してる者同士が交渉する場合、「互恵」と「相互」には大きな差がある。
「互恵」関係というのは、要するにWin-Winの関係。お互いにとってプラスになる関係を指す。
一方、「相互」的な関係ってのは、実は意外にアンフェアなものになることが多い。
例えば、日本人とアメリカ人で食事をするとする。ワリカンで。で、もし日本人が貧乏学生でアメリカ人は金持ちのボンボンだった場合、どうだろう?
このワリカンは、フェアと言えるか?というハナシ。
これを、同じ額だけ出すんだからフェアでしょ、と言い切っちゃうのが「相互」的な関係、ってこと。
2人が「互恵」的関係だったら、ボンボンのアメリカ人は「オレ、今日は結構持ってんだ。多めに出させてくれよ。」とか言ったりする。
まぁ、簡単に言っちゃえば、そういうことです。
トランプに話を戻すと、彼は常に自分に有利になるようにハナシをもっていこうとするし、そうじゃないと「アンフェアだ」と怒る。
本来アメリカは大国なので、常に強い立場にいる筈なのに、最終的な金額だけ見て、「アメリカが赤字だ、フェアじゃない」と騒ぐ。
過去の経緯や背景、お互いの立場とかを総合的に考えて、交渉していってまさに「互恵的」な関係を目指す、ってのが本来のあるべき国同士の関係だけど、トランプは違う。
金額が違うぞ、 “Reciprocal” じゃねぇ!とキレる。彼の言う “Reciprocal” とはそういうこと。
「互恵的」というのをトランプが口にするとしたら、”Mutually Beneficial” とか言わなきゃいけない筈だけど、まぁ言わんでしょうね。
言ったら自分が不利になるから。
今回の合意(と呼べるかどうかはともかく)、言葉のニュアンスの微妙なズレを使って上手く着地させた、みたいに評価する専門家もいるけど、この認識のズレ、絶対後でモメる、とボクは思う。
もし、日本側にごまかされた、とトランプが思えば、すぐに彼はアンフェアだ、交渉はやり直す!とゴネることは容易に想像できる。
日本のメディアが「相互」と「互恵」をすり替えて「安倍総理のファインプレー」と持ち上げたところで、そんなのタダの先送りに過ぎないことは、直ぐに明らかになるでしょうけど。
批判できない、するわけにはいかない事情
それにしても、なんでこんなことになるのか。
普通に受け取れば(予想された)大失敗の会談。「マブダチ」パワーで一発逆転、なんてある筈もなく。
そもそも「トランプとマブダチ(という表現はもちろんしてない)」なんて安倍官邸が一方的に流してるだけの情報、つまりスピンなだけだし。
大体、考えたらわかるでしょ、国のトップ同士のハナシだよ?小学生のホームルームの時間とかと勘違いしてない?
仮に友情で国家の判断がコロコロ変わってたら、そっちの方が問題じゃない?
さて種明かし。
記者クラブメディアがこういった首相や大臣の海外での会談を「金魚のフン」状態でフォローするとこうなる、という典型的見本、というハナシ。
今回の首脳会談のように海外で行われる会談は、総理が専用機で奥様と仲良く手を振りつつ出発、というニュースでお馴染みのシーンから始まる。
その移動中、機内で総理は何をしてるか。もちろん、寝たり食事したりもあるかもしれないけど、実は取材もされている。
政府専用機の中には、ちゃんと記者のインタビューを受けるスペースが設けられている。
日本からいわゆる「総理番」と呼ばれる記者が総理のお供をして、逐一取材して、その内容がメディアに流れる、という仕組みになっている。
日本の「総理番」は総理夫人より長く総理と過ごしている、という事になる。
こうして取材対象に張り付いて取材を重ねることで、信頼関係を築いて特ダネを引き出す。これを「喰い込む」と言うらしい。グイグイ。
なるほど、すごいな、そこまでしないと情報は取れないんだ、と思ってしまった方、残念でした。
こういうシステムは、少なくとも先進国では、日本くらい。海外では大抵、御法度。なぜか。
取材対象にあまりにも近づくと、そこは人間。情も生まれる。そうすると批判できない。それはジャーナリズム精神に反する。
これがグローバル・スタンダードのジャーナリズムの考え方。
もちろん取材対象と、ある程度近づかなきゃ話も聞けないし、情報も取れない。
じゃあ、取材対象者にどこまで近づきつつ、どう距離を保つか。
これが世界のジャーナリストが常に課題とし、試行錯誤しているところ。
残念ながら日本の記者クラブメディアには、昔からこの発想がない。
それどころか日本の記者は「~番」となっていかに「金魚のフン」になるかが勝負で、そうやって情報を取ると「喰い込んだ」と社内で評価される。
更に「~番」記者は、なんと取材対象の出世に合わせ、自分も社内で出世するらしい。なんじゃそりゃ。
となると、当然逆もある。取材対象が失脚したり左遷されたりすると… 😥
こうなると、取材対象と番記者は一蓮托生というか一心同体というか。
信じられないけど、取材対象の政策ブレーンになる番記者まで現れたりする。もう、なにがなんだか。
「オレ、総理演説の原稿書いたんだぜ」とか。
記者だから原稿書くのは得意だろうけど…ウソのような、ホントのハナシ。
「公正中立」な報道、というタテマエは一体どこへ行った?という素朴な疑問が空しく響く。
実はこうして生まれている記者クラブ発の報道が、日々、日本のメディアを賑わせている。
こんな記者クラブ発の報道、あなたは信じますか、信じませんか?
イサ&バイリン出版 解説兼論説委員 合田治夫