<もはやスポーツではなくなっています>
内田正人前日大アメフト部監督

内田前日大アメフト部監督(写真:朝日新聞)

連日メディアに大きく取り扱われている日大フェニックス(日本大学アメフト部のチーム名)による危険タックルを巡る問題は、加害者となった選手が首脳陣の指示を明言する事態に至っています。

報道当初はフェアプレー精神を著しく欠いたラフプレーそのものに焦点が当たり、タックルを行った選手に対する批判の声も聞かれましたが、当該選手が異例の顔と実名を晒しての記者会見を開き、状況が一変しました。
この会見以降「暴走した学生が引き起こした異常なラフプレー」から「監督をはじめとする指導陣のパワハラ」へと報道の”主役”も変化、自らの責任を否定し続けた内田監督は退任に追い込まれました。

(以上 HEADLINE 2018.5.23)

< ほぼナイ! レビュー動画(Vol.34):【 見逃し配信を視聴 (YouTube)】>

『ココがヘン!ニッポンのニュース:日大アメフト部の“異常”と“常態”:元凶は「体育」と「スポーツ」の混同

<参考:朝日新聞デジタル「アラインどこでもいい」アメフトじゃない 東大コーチ

目立って「しまった」アメフト

何を隠そう、ボクは大のアメフト好きだ。いや、正確に言うとアメフト観戦好きだ。特にNFL(アメリカのプロフットボールリーグ)の。
ちなみに、自分でアメフトをプレーしたいとは一度も思ったことがない。アレは観るモノで、ヤるもんじゃない。とゆーか、ボクにはできない。
下手したらモノの数秒で首の骨折って即死かも。それくらい、危険なスポーツだ。
そういう認識は、普段アメフトに興味がないであろう、大多数の日本人にもあったようで、今回の事件はあっという間に大ニュースになり、メディアがこぞって取り上げた。

日が経つにつれ、実際に相手チームの司令塔(QuarterBack)にタックルを行い、ケガさせた選手への批判は、現役の学生でありながら実名顔出しという異例の謝罪会見を境に急速に収まった。
更に会見内容も非常に率直かつ真摯で説得力のあるものだったと、多くのメディアが評価した。
そしてこの会見でも選手が証言したように、危険なプレーを指示したのが内田前監督をはじめとした日大フェニックスの首脳陣であったという説が有力になり、加えてこれまでの指導の問題点も明らかになる中で、「内田体制や日大のパワハラ体質」へと批判の矛先が移っていった。

今回の騒動でヘンにアメフトが目立って「しまった」ことはボクとしても残念だ。
ただ、問題の焦点はアメフトの問題というよりも、(特に学生)スポーツ全体の在り方、みたいなことに拡大する気配もあり、そうなると悪いことばかりでもない。
今回の騒動がスポーツ全体を見直すきっかけになれば、不幸中の幸い、といったところかもしれない。

本場アメリカにはいない「監督」

今回の騒動は、アメフトの本場アメリカでも大きく報道され、注目もされた。
アメリカでのアメフト人気は日本の想像を絶するものがある。
世界一の人気スポーツと言えば文句なくサッカーだけど、海外ではサッカーを Soccer とはまず言わない。確かに Soccer はちゃんとした英語だけど。
海外でサッカーは Football と言う。ただし、アメリカ(とカナダ)を除く。アメリカのみ、サッカーは、Soccer。そして Football というとアメフトを指す。
American Football 、なんてそもそもアメリカでは言わない。長くなるので。

それくらい、アメリカにおいてアメフトは特別な存在。
だからこそ、今回の騒動も注目されたけど、それは長くは続かなかった。
なぜか。
今回に限らず、日本のニュースは海外ではすぐスルーされる。
その理由の一つは、実は記者クラブの存在が大きいのだけど、今回はあまり関係ないようなので、この話は別の機会に。
今回は、それ以前に話があまりにも(アメリカ人にとって)理解できなさ過ぎて、どうでもよくなった結果、このニュースへの興味自体もなくなったんじゃないか、と思う。

森清之氏

森清之 元日本代表HC(写真:東大アメフト部公式サイト)

何が理解できないのか。それを的確に表現されているコメントを、日本代表の元 ヘッドコーチHead Coach 森清之氏が出されていたので、そのまま参考記事としてご紹介させていただいた。
要は、アメフトは高度に知的かつ戦略的なスポーツであり、今回の選手の証言が事実とすれば、(日大)フェニックスで行われていた「アメフトと称するモノ」は、とても非戦略的でアメフトと呼べるシロモノじゃない、と森氏は言ってるワケだ。
それは本場アメリカのアメフトファンからしても同じことで、ニュースを知って「なんだそりゃ、そんなもんアメフトでも何でもねーよ」ということになったのだ。
となると今回の騒動はアメリカ人からすると、タダの日本の学生間の暴力事件の一つに過ぎず、幸い命にも別状なかったワケで、そりゃ興味はすぐになくなって当然だ。

アメリカ人にとって今回の騒動が理解できなかった要因がもう一つ。
今回の騒動の主役は、もちろん今回完全な悪役(ヒール)となった内田前監督だ。
だが、これもアメリカ人にとってはよくわからない。なぜならアメリカではアメフトのチームに 監督Manager というのはそもそも存在しないからだ。
いるのは Head Coach で、実はこれはアメフトに限った話ではなく、アメリカのスポーツチーム、いや海外のスポーツチームには、ほとんど監督という役割が存在しない。
アメリカのスポーツチームで 監督Manager がいるのは 野球Baseball くらいのものだ。
アメリカ、いや、世界のチームスポーツにおいて、プレーの主役はあくまで 選手player だ。
ただ、個々の選手が勝手に動くとチームがバラバラで収拾がつかなくなるので、Coachplayer をサポートする、ということになっていて、個々の Management は player が自主的にやりなさい、となる。
こうなると当然 Manager は不要になる。Manager = player 、なのだ。

選手が自主的に考え、主体的に判断し、プレーする。これこそが スポーツSports の本質で、日本ではトップレベル(日本代表とか)のチームにさえよくあるような、〇×監督の名前を冠した「〇×ジャパン」のようなネーミングで呼ばれ、監督が一番目立つような現象は、海外ではまずない。
指揮官・指導者がチームの先頭に立ち、その指示に選手が従い、統制の取れた動きをしていく、というのは、 スポーツSports ではなく 体育Physical Education の発想で、スポーツ体育の違いすら明確にされていない日本では監督ヘッドコーチの役割もあいまいにされているのが現状だ。

アメフト、のようなもの

(前)監督の異常な独裁・専制。そして、そもそも本場米国では存在しない監督という存在。
そして「ほぼナイ!」本編でも言ったけど、アメフトというスポーツは、防具を全身にまとい激しいタックルを繰り返す格闘技的な荒々しい面が目立つ一方で、森氏の指摘の通り、実は非常に高度な戦術に基づく知的な頭脳戦という側面もある。
「究極の観るスポーツ」なんて表現まであるくらいだ。
この頭脳戦を支える最高指揮官がヘッドコーチで、チームの高度な戦略を管理し各選手に戦術を指示する極めて重要な役割を持つ。
この高度な戦略も、一度プレーが始まってしまえば、ヘッドコーチは一つのプレーが終わるまでプレーに関与することはできない。
プレー中の判断は、個々の選手に委ねられる。当然だ。コーチがそばでつきっきりで指導、なんてことができるワケがない。
なので、プレーが開始される前の各選手のポジションを決める アラインAlign は、最もヘッドコーチの手腕が試されるものの一つだ。
これがほとんど行われてなかったと言われるフェニックスは、もはやアメフトじゃなくて、「アメフト、のようなもの」をやってた、ということになる。
森氏はまさにこのことを指摘しているし、アメフト好きのアメリカ人の誰に聞いても、きっと同じ答えが返ってくるだろう。

「そんなもん、アメフトじゃねーよ」

イサ&バイリン出版 解説兼論説委員 合田治夫