スポーツ日本勢、海外ではノビノビ:日本のスポーツ選手は「外弁慶」?!(2018.6.27配信分レビュー:その2)

<パワハラのないところで活躍しています>
エンゼルス 大谷翔平選手

大谷翔平選手(写真:AFP)

国内では日大アメフト部や女子レスリングのパワハラ問題を抱える一方、MLBやサッカーW杯など、海外での日本人選手の活躍が目立っています。

日本のトップレベルのアマチュアスポーツが相次ぐスキャンダルに見舞われ、団体の存在意義をも問われかねない事態に陥っています。
日大アメフト部は昨季の大学日本一に輝いている他、パワハラ被害に見舞われた女子レスリングの伊調馨選手は五輪三連覇を達成後、国民栄誉賞も受賞した文字通り日本を代表するアスリート。
日本を代表するアマチュア競技者がパワハラ被害に苦しむ一方で、今年は特に海外で活躍するプロのアスリートの躍進が目立ちます。
大谷翔平選手を筆頭に本場米国で活躍する多数のMLB(野球)日本人選手やW杯で活躍したサッカー日本代表、怪我から復活したテニスの錦織圭選手や大坂なおみ選手など、海外のパワハラとは無縁の環境で、多数の日本人プロアスリートが本来のパフォーマンスを存分に発揮しています。

(以上 HEADLINE 2018.6.27)

< ほぼナイ! レビュー動画(Vol.35):【 見逃し配信を視聴 (YouTube)】>

『ココがヘン!ニッポンのニュース:スポーツ日本勢、海外ではノビノビ:日本のスポーツ選手は「外弁慶」?!

<参考:ハフポスト日大アメフト部だけの問題ではない。「体育」と「スポーツ」は同じではない。

祝日の移動だけじゃない、もう一つの重要な「変革」

なかなか終息の気配が見えない日大アメフト部の危険タックル騒動に端を発したパワハラ問題はじめ、日本のアマチュアスポーツが様々なスキャンダルに見舞われる一方、プロスポーツの方は海外の日本勢が大躍進を遂げている。
2020年の東京五輪を控え、近年まれにみる「変革」期を迎えている。
まず、五輪にあわせた時限措置として、2020年の祝日が大幅に変わる。
「海の日(7月第3月曜)」「体育の日(10月第2月曜)」「山の日(8/11)」が本来の日から開会式と閉会式の前後にそれぞれ移動し、開会式と閉会式の前後がそれぞれ4連休と3連休になる。
オリンピックの観客と東京の通勤ラッシュが重なることを避ける目的らしい。

このニュースは大きく報道されているが、20年にもう一つスポーツ界にとってはより重要かもしれないことが変わる。
体育の日」が開会式当日(7/24)に移動するだけでなく、名称も「スポーツの日」に変更になる。
こちらは祝日の移動と異なり、一年限りのハナシではなく、そのまま「スポーツの日」が続く、かもしれない。
かもしれない、というのは、実はこの「スポーツの日」が日本にできるのは2回目で、それが現在の「体育の日」に変えられた経緯があるので、また歴史は繰り返す、かもしれない、という意味。

前回の「スポーツの日」は、前回の東京五輪(1964年)のちょっと前の1961年にできたけど、今の体育の日とはかなり違うシロモノ。
10月の第1土曜だったらしいけど、それより何より、祝日じゃなかった。普通の日。ただ、みんなで運動しようね、健康第一、みたいな。
それが66年に、64年の東京五輪の開催を記念して、開会式の10月10日を祝日にしましょう、となった。
ここまではいい。その祝日化の際に、「なぜか」それまで「スポーツの日」だったものが「体育の日」になってしまう。
そして、ついには初の東京五輪を記念していた筈の日が、10月第2月曜、という縁もゆかりもない日が「体育の日」に変わる。
これが現在までの大体の経緯だ。

ボクのここまでの書き方からして、既に何となく感じている方もおられるかもしれないけど、そうです、ボクは「体育の日」がキラい、とゆーか、オカシいと思う。
まず、「体育の日」は英語で Health and Sports Day(直訳:健康とスポーツの日)。
そもそもが英語では「体育の日」なんて言ってない。ま、そもそも日本の祝日の名称に、海外の人はそもそも興味ないヒトが大多数だろうけど、万が一訊かれたときには正しく理解してもらった方がいいと思う。
で、正しく訳すと「体育の日」は Physical Education Day とかになってしまう筈だけど、これは国際的には通じない。
前回も取り上げたように、「スポーツSports」と「体育Physical Education」をごっちゃにしているのは日本くらいのもので、両者は似てるようで全く違うものだ。
それをちゃんと理解してない人々が「スポーツの日→体育の日」なんてしちゃったものだから、英語にするときだけスポーツ、みたいなオカシなコトになったんだと思う。
Physical Education Day なんていわれても、スポーツ本来の楽しいイメージはそこにはない。まるで軍隊チックな、全体主義的なキビしさしか、そこにはない。
この「体育Physical Education」的なものの延長線上にあるのが、最近はやりの「ブラック部活」とかがあったりするのではないか。
こうした「体育Physical Education」的なものの行きつく先が、日大アメフト部だったり伊調選手に対するパワハラだ、と言ったら言い過ぎだろうか。

海外勢を悩ませる「魔の手」

ほぼナイ!」配信時にも言ったけど、海外のスポーツ現場には「パワハラ」なんてことはまずあり得ない。
それは「スポーツSports」の試合を Game という事があることからしても明らかで、やってる当人たちが楽しむためにやるのが本来の「スポーツSports」であって、となると、イヤならやめればいい、という事になる筈だ。
間違っても、やれ「忍耐」だの「根性」だの、(特に日本の)社会で要求されがちな、目上の指示が例え理不尽でも無条件に服従する、なんてことを習得するためにやるもんじゃない。
なんだけど、残念ながら、日本の学生スポーツの現場には、改善されつつあると言いながらも、いまだにこうした「体育的な発想」がそこかしこに顔を出すようで、今回の一連のパワハラ問題でその悪い面が噴出した、という事なんじゃないかと思う。

一方、こういった「体育的な発想」とは無縁な海外で、プロとして自主性をもって活躍する選手は、実にノビノビと、まさに「体育」じゃなくて「スポーツ」をしているように見える。
野球、サッカー、テニス、ゴルフ…様々な競技で活躍する日本人選手は、その言動やファッションなども従来の日本人選手とは違い、明らかに個性的で外国人選手の方により近い、と映ることも少なくない。
時には一部のメディアから批判の対象になったりもするが、そんなことは日本国内だけのハナシで、自分には関係ない、自分の活躍の場は海外だ、と考えているかのようだ。
そんな世界トップレベルのアスリートに求められるのは、指導者の指示を待つのではなく、自分で判断し瞬時に動く、ということ。
指示を待っていたのでは、次のプレーへの始動が遅くなり、大きなタイムロスや減点につながったりする。
競技によってはそもそも競技中の指示を受けられないケースも多いし。
日本人が昔から苦手としてきた、そして世界で求められている自主性の重要性、何もスポーツに限ったことではないと思う。

さて、世界で活躍するプロのトップアスリートだけど、以前から一部で指摘されながら、未だに変えられない「体育」の弊害に悩まされている実態もある。
その顕著な例がプロ野球選手だ。
今年の野球と言えば、何と言ってもエンゼルスの「二刀流Two-way player」大谷翔平選手の活躍が際立っているけど、他にも今年MLB一年目の平野佳寿投手や昨年以前から活躍を続けている田中将大投手や前田健太投手、ダルビッシュ有投手と、今年もMLBで多くの日本人プレーヤーが活躍している。
と言いたいところけど、実際には平野投手を除くほぼ全選手がベストのパフォーマンスを発揮している、とは言い難い。
スランプとか不調とか相手に研究されている、とかのハナシじゃない。ケガだ。
今年の日本人MLBプレーヤーは、平野投手を除くほぼ全員が、ケガで長期離脱で成績以前の状況だ。
連日活躍が伝えられている大谷選手も、肘の故障で一時試合に出られず、肘の影響が少ない打者としてのみのプレーが続いている。
投手としての復帰には、まだ時間がかかる状況だ。

実は日本人MLBプレーヤーの多く、特に投手は一年を通してケガでの離脱なく活躍することはほとんどない。
高いパフォーマンスを見せていても、ある日ケガで離脱、という事がしばしば起こっている。
ほぼ例外なく、毎年必ずと言っていいほど。
日本人選手は能力は高いがケガに弱い、というのはアメリカでは定説となりつつある。
これは日本人がアメリカ人より体が弱い、ギリギリのレベルでプレーしているから体への負担が大きい、とか様々な理由が挙げられているけど、その一つが「甲子園」だ。

日本人のプロ野球選手はほぼ全員、高校時代に野球部に所属し、これもほぼ例外なく甲子園を目指して厳しい練習に耐えてきている。
その中でも、特に投手で、高校時代に「エース」と呼ばれ活躍していた選手は、ほぼ例外なく人権無視の環境でプレーしている。
プロでは最低でも4日間の休息がとられているのに、高校野球は一人の投手が毎日のようにプレーする、なんてことも珍しくない。
最低4日間の休息は疲労からくるケガ防止のためには必須で、一部では5~6日間が必要、との意見もあるほど。
連投(連日プレー)なんて選手寿命を縮める自殺行為、と本場アメリカでは考えられている。
実際、高校時代のオーバーワークで回復不能のケガを負い、プロの道を断念した、なんてケースは山ほどある。
プロ野球選手になる夢を奪われることで、就職先を奪われ、収入を奪われ…実に残酷なハナシで、これが人権侵害じゃなきゃ何なのか。
仮に運よくプロになれても、プロになってケガを抱えたり、更にはプロで活躍できても、MLBでケガに悩まされ…と、ほぼ全選手、もれなくケガに悩まされているのが日本人選手だ。
ケガさえなければ、これまでよりはるかに活躍できていた筈だ。

こういったことは野球以外のスポーツにもあるかもしれない。
こうした現実を、日本のスポーツジャーナリズムはほとんど扱おうとしない。
なぜか。理由は簡単で、こうした非人道的な環境をつくりだした張本人がメディアだから。
例えば、高校野球の春と夏の大会を主催しているのは各地域のメディアであり、その頂点である甲子園大会の主催者は春の毎日新聞と夏の朝日新聞だ。
この地方大会と甲子園が、純粋で情報に乏しい高校球児に過酷な環境を強いていて、それを無理やり「美談」に仕立て上げ、自分達のメディアを通じてキラーコンテンツとして視聴率や部数を稼ぎ、利益を得ている。

海外では、メディアがスポーツチームを持ったり、大会を主催したりすることは、まずない。
なぜなら、今回指摘したような問題点をメディアとして報道しようとしても、自己批判になってしまう。
自分達に批判の矛先が向けられてしまうだろうし、それに耐えられるメディアは少ない。
エラそうなことを言うな、と言われるのがオチだ。
それが分かっている海外のメディアは、チームの所有や大会の主催を「御法度」にしているのだ。

何もスポーツに限った話じゃない。
メディアは報道する対象に利害関係を持っては絶対にいけない、と「ほぼナイ!」で何度も言ってきているのは、そういうことだ。
でないとまともなジャーナリズムが働かなくなる。
伝えるべきことを伝えられなくなってしまうのだ。
そのことを今、身をもって示しているのが、日本の記者クラブメディア。
見事に取材対象とのしがらみに絡めとられ、伝えるべきことが伝えられなくなっているのだ。
こーゆーのを、反面教師、と言う。

イサ&バイリン出版 解説兼論説委員 合田治夫

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