BBC『Japan’s Secret Shame』に世界が反応、記者クラブは依然沈黙:文字通り「恥の上塗り」(2018.7.25配信分レビュー:その1)
<英国を中心に大きな反響が巻き起こっています>
英BBCでドキュメンタリー「Japan’s Secret Shame」が現地時間の先月28日夜に放送されました。伊藤詩織さんの準強姦事件を特集したTV番組です。
3年前に発生した伊藤詩織さんに対する準強姦事件は、容疑者が詩織さんに対し性交があったことを認めながらも準強姦容疑自体は否認しているものの、当時警察が逮捕状を請求、逮捕直前までいきながら、逮捕が突如取りやめになり、その後容疑者が不起訴処分となった、日本の刑事事件としては異例の展開を見せた事件でした。
しかも、この容疑者が元TBSのワシントン支局長で、安倍総理に非常に近い存在であったことから、ネット上で大きな話題になりながらも大手メディアは全社ほとんど報道せず、特に事件の当事者と言えるTBSは当時から事件を把握しながら意図的に放置しつつ、容疑者を退職させていたことも明らかになっています。
大手メディアが軒並み沈黙を続ける中、事件の風化を恐れた詩織さんは実名告発に踏み切りましたが、それでも日本のメディアは沈黙を続ける異例の展開に、BBCなどの海外メディアが事件を先行して伝えることになりましたが、それでも国内大手メディアの沈黙は続いています。
(以上 HEADLINE 2018.7.25)
< ほぼナイ! レビュー動画(Vol.36):【 見逃し配信を視聴 (YouTube)】※配信時の不手際で映像が傾いており、大変見づらくなっております。>
『ココがヘン!ニッポンのニュース:BBC『Japan’s Secret Shame』に世界が反応、記者クラブは依然沈黙:文字通り「恥の上塗り」』
<参考:BBCニュース> 「日本の秘められた恥」 伊藤詩織氏のドキュメンタリーをBBCが放送
「犯行」重ねるTBS
「ほぼナイ!」では何度も取り上げてきた伊藤詩織さんの事件は、詩織さんが声を上げてからも一年以上が経過してしまった。事件発生からはもう3年経っている。
けど、この事件と、そして何より詩織さんが発する日本社会への警鐘に対して、相変わらず日本の記者クラブメディアは沈黙を続けている。
そしてついに、この事件に何の関係もないイギリスのBBCが特集を組んでしまった。
準強姦という女性の尊厳を踏みにじる重大な性犯罪を、当時メディアの中枢にいた人物が起こした可能性の極めて高いこの事件に対し、ロクな検証も行わず、当事者のTBSも他社も一切報道しない姿勢は、既に地に落ちているかもしれない日本社会の信頼を更に貶めることになった。
BBCが今回指摘した Japan’s Secret Shame:日本の秘められた恥 とは、事件の当事者の可能性が極めて高いTBSをはじめ、沈黙を続ける記者クラブメディア各社のことも指している、というか日本の大手メディアが最も恥ずべき存在になっている事も、番組放送後も当たり前のようにメディア各社は沈黙を続けているだけに、国民の多くは事件の存在すら未だに知らされず、イギリスを含む先進国から見れば、結局日本社会全体が「恥の上塗り」になってしまっている。
一方で、こちらはメディアで大きく取り上げられた事件として、オウム真理教の麻原彰晃死刑囚ら地下鉄サリン事件など一連のオウムを巡る事件の死刑囚の刑が一斉に執行される、という出来事があった。
この刑執行を契機に、当時のオウム事件を振り返る報道が数多く流れたけど、ここでもTBSをはじめとしたメディア各社が重大な「沈黙」を重ねることになった。
当時TBSは、マスコミ他社同様、オウム関連の報道を積極的に行っていた。
その一連の報道の中には、当時から問題点が指摘されていたオウムの主張を積極的に取り上げ、結果的に布教活動に加担したと言われても仕方がないものもあった。
そんな中で、オウムが次々と刑事事件を起こし、中には教団外での殺人事件まで起こしていた事があきらかになり、オウムに比較的好意的だったメディアも厳しい態度に変わっていった。
そして当然のように、当時の大手メディアは「自分達のオウム観に問題があった」と自己批判を堂々と行うメディアはほとんど出てこなかった。
たまに、とってつけたような自己批判が行われても、それはそれまでの報道量から比べると、ごくごくわずかで目立たず、既成事実をつくるためだけの謝罪とも反省ともつかないようなシロモノで、それを口にする出演者の態度や口調は完全に他人事のソレであった。
メディアの謝罪に全く誠意が感じられず、その後に過去の反省が活かされることもなく、同様の過ちを繰り返す、というのは、今に始まったことじゃない。
話をオウム報道に戻す。
一連のオウム事件の中で「坂本弁護士一家殺人事件」というのがあった。
事件発生直後はオウムの犯行と断定する証拠は出ず、警察もオウムに対して動けなかったが、後にオウムの犯行であったことが確定した事件だ。
そして、オウムの犯行と確定したのにあわせ、この事件の直接の原因をつくってしまったのが、なんとTBSだという事が明らかになる。
TBSはオウム取材の過程で、当時積極的にオウムに批判的な活動を行っていた坂本弁護士の映像をオウム側に見せ、このTBSが見せた映像を問題視したオウム側が一家殺害という凶行に及んだ、という事が発覚したのだ。
当時からオウムが既に一部でカルト教団と呼ばれ危険視されていたことを除いても、(本来は秘匿すべき)取材内容を第三者に漏らし、結果的にそれが殺人事件に結び付くという、メディアとしては致命的な事件だった。
さすがにTBSも所属アナウンサーが番組内で謝罪の弁を述べるなど、完全になかったことにはできなかったが、番組内での一度の謝罪のみで全てが許されるような問題だったのかには、疑問が残る。
本来ならば、一連の出来事に関する大掛かりな検証番組がつくられ、トップが放送でしっかり謝罪するといったことが行われてしかるべきだと思うけど、そういったことが行われた記憶は、ボクにはない。
それどころか日本社会のノリからいえば、放送免許返上(=TBSの廃業)とか、放送の一定期間中止とかがあっても不思議ではないと思うけど、当時もそんな動きはカケラもなかった。
そして今回。再び日本国民に当時のオウム事件の記憶が呼び戻される機会となったワケだが、TBSが今回のオウム事件回顧の報道の中で、当時のTBSの「犯行」にはまったく触れないことが一部のネット上でも指摘されていた。
TBS以外も同様で、さすがは妙なところだけ仲間意識をフルに発揮する日本のメディア、「そういえば当時TBSが…」などと批判的な報道をするメディアはなかったようだ。
ま、いつものように、自分たちに何かあった時の「保険」として、ヤブヘビになるのを避ける意味でも、示し合わせたようにダンマリ、というのは「詩織さん事件」の扱いと似たモノを感じてしまう。
反省もなく、歴史に学ばないメディア。残念だけど、当然のようにまた失敗を繰り返すのだろう。
とても「ヒトのことを言える身分じゃない」
「ほぼナイ!」配信時に言ったように、詩織さん事件もオウム事件も、TBSだけを悪者にする気にはボクはなれない。
もちろん当事者はTBSで、他社にそれを防ぐ手立てはなかったのだけど、では他社はTBSのような問題を起こす要素がないのか、といえば、そんなことはない、というかむしろその逆。
確かにTBSには目立った問題が多く、その事後処理はもっと問題だけど、非を認めない、反省しない、過去に学ばない、というのは、他社もまさにTBSと「五十歩百歩」だ。
結局東京のキー局は全て「記者クラブ」という海外では決して通用しない独自ルールの中で動き、横並びの報道を続けていて、報道が横並びなら、失敗も横並び。
とても、TBSはもちろん、他局も「ヒトのことを言える身分じゃない」し、それは他の記者クラブメディアも同様だ。
だけど、いつまでもこんな状態が通用するとは考えない方がいい。
江戸時代のように鎖国しているならともかく、日本は一応経済大国で、先進国の一員という事になっている。
徐々にその地位が怪しくなっている、という指摘もあるけど。
クラブ外の取材を一切認めず、報道の自由を阻害する日本の記者クラブの在り方は、海外から日本に取材に来る記者にさんざん批判されながらも、幸か不幸か日本の国際社会での地位の低さにも助けられ、その存在の弊害は日本国民にも海外にも、広く知らされることはなかった。
しかしこのような状況も、インターネットの普及により徐々に崩されつつある。
事実、詩織さん事件もそれを巡る一連の日本社会とメディアの Shame:恥 はBBCの知るところとなったのだ。
「臭いものにフタ」は確実に難しくなってきている。
世界にさらされたもう一つの「恥」とは
ところで英BBCが放送した番組内には、もう一つの「恥」が扱われている。
事件当初から詩織さん自身が、自らの事件と政治の切り離しを求めているにもかかわらず、ネット上では安倍政権支持者の多くが詩織さんバッシングを展開していた。
容疑者が安倍政権に近かった、という、詩織さんには全く関係のないハナシで。
被害者当人(詩織さん)が安倍政権の是非とは関係ない、と言ってるのだから、せめて支援はしなくても無視しておけばいいのに、と思うのだけど、どうしても安倍政権支持者は火に油を注がないと気が済まないようだ。まぁそれはさておき。
その詩織さん批判をする人々の中には、安倍政権云々とは別に、詩織さんと同じ女性の中からも意外に多く批判の声が聞かれた。
これが欧米諸国には完全に理解できない点で、性犯罪者・性犯罪は日本以外の欧米にももちろん存在するけど、少なくとも被害者女性を同性が批判する、などという事は絶対に、絶対にあり得ない。
今回BBCが注目した点の一つがこれで、簡単に言えば、女性の地位が極めて低い後進国でもない限り、というか、民主主義を基盤とした先進国において、レイプの被害女性が同じ女性から批判されることなど、絶対に、絶対に、絶対にあり得ない。
それを行う女性が、こともあろうに国会議員にいた、ということで、番組内ではその女性議員がインタビューを受け、悪びれることもなく詩織さん批判を展開している。
その議員とは、つい最近LGBT批判で注目を浴びた杉田水脈(みお)衆議院議員だ。
インタビュー自体はフェアな取材の一環として行われたことが推測されるし、インタビュアーと杉田議員が取っ組み合いのケンカを繰り広げた、というハナシもない。
ただ、番組内で杉田議員のインタビューは、「トンデモ議員」の「(弱者に対する)野蛮な発言」として扱われていた。
当然だ。欧米の、先進国の基準に、杉田議員の言動を許容する余地は、1ミリも、ない。1ミリも。
杉田氏の言動も「恥」の一つという事になる。
そしてこのインタビュー取材の後、杉田議員の「LGBTは生産性が低い」批判が明らかになる。
断っておくけど、議員が何を言おうと自由だ、とボクは思う。総理大臣ならいざ知らず、一議員の発言は自由だし、その発言の自由は尊重されるべきだ。
国会議員は国民の代表なので、その発言を制限することは、国民の言論の自由を奪うことになるから。
因みに、杉田議員は小選挙区ではなく比例で当選した議員。つまり所属である自民党の票で当選した議員、杉田氏個人の力で当選した議員じゃない。
杉田議員はLGBT批判が報道された直後は自分の正当性を主張していたようだが、メディアの批判が大きくなると「何故か」表舞台から突如姿を消す。
個人攻撃を避ける為におとなしくしている、という事らしいけど、杉田議員への個人攻撃は筋違いだ。
当初は自分の言動が現職の閣僚の一人からも支持されているとツイートし、これも批判の対象になった。
恐らく杉田議員の「雲隠れ」は自民党の指示よるものだと思うが、自民党は一刻も早く杉田議員にLGBT批判の真意を記者会見させ、杉田氏を擁護した閣僚の名前も明らかにすべきだ。
発言を撤回しない以上、堂々と杉田議員の正当性を主張させなければおかしいし、逆に杉田議員は、現在の地位が変わらない限り堂々と活動し、発言する義務がある。
今のままだと杉田議員の言動の全責任は自民党が負っていることになり、杉田議員の除名を強く求めない(因みにそんな自民党議員は現状一人もいない)全ての自民党議員も同様に責任を負っていることになる。
となると、欧米社会から見ると、自民党は欧米の先進国の価値観に敢然と反旗を翻す極右政党だという事になり、そんな党が与党なのかという驚きの目で見られ…
そんなのはイヤだ、という人は、次の国政選挙で自民党議員には票を入れない、という方法しか残されていない。
前回の総選挙で杉田氏を比例の名簿で一位に置いた自民党が、杉田議員を党から除名しない、という事はそういう事で、雲隠れさせただけでは何の意味もない。
このように、一連の杉田議員の言動は、欧米社会から見ると「非常にインパクトの強い」ものであり、これをマズいと思うなら、それを指摘し、批判するのはメディアの仕事だ。
自民党も記者クラブメディアも、もうしばらくは杉田議員を「雲隠れ」させ、国民が忘れた(或いは飽きた)時期を見計らって何もなかったように杉田議員を復帰させるのだろう。
こんなのは過去に腐るほどあった話だけど、海外メディアが杉田議員の事を忘れるかどうか、それは甚だ怪しい。
イサ&バイリン出版 解説兼論説委員 合田治夫
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