千葉小4女児死亡「国家レベルの児童虐待」:日本社会は子どもに冷たい?!(2019.2.27配信分レビュー:その1)

ー ほぼナイ! HEAD LINE ー
<再三の勧告を無視していました>
会見中のSandberg委員

会見中の Sandberg 委員(写真:共同通信)

千葉県野田市立小4年の女児が1月末に自宅で死亡していた事件について、国連の子どもの権利委員会(Committee on the Rights of the Child)は7日、記者会見で「日本社会全体で向き合うべき問題」と指摘しました。

この7日の記者会見は、子どもの権利委員会によって今回の女児虐待死と偶然にも同時期(1月中旬)に行われていた、日本の子どもの生育環境についての審査結果を発表する場でした。
会見での「日本社会全体で向き合うべき問題」との趣旨の発言は、今回の虐待死についても言及したもので、東京新聞の記事によると、子どもの権利委員会の Sandberg 委員は、同事件について「起きてはならない残念な事件だった。誰か大人が反応すべきだった」と述べ、今回の事件を単に一個人や一組織の過失で済ませるべきではないことを、厳しく指摘しました。
同委員会は会見で、日本政府に4つの勧告を行ったことを明らかにしています。

(以上 HEADLINE 2019.2.27)

< ほぼナイ! レビュー動画(Vol.43):【 見逃し配信を視聴 (YouTube)】>

『ココがヘン!ニッポンのニュース:千葉小4女児死亡「国家レベルの児童虐待」:日本社会は子どもに冷たい?!

<参考:Human Rights Watch日本語版)> Children in Alternative Care in Japan日本における社会的養護下の子どもたち

「異常な」父親と「ヘタレ」児相によるレアな事件?!

千葉県野田市の小4女児が父親からの度重なる虐待が原因で死亡したというニュースは、ニュースやワイドショーで大きく報道され、多くの日本人に衝撃を与えた。
しかも、この残酷極まりない「異常な」父親からの圧力に負けて、事件当時女児のSOSを把握していた野田市の児相(児童相談所)が、女児が書いた父親の虐待を訴えるアンケートの内容を父親に開示してしまうという、誰が考えても簡単に結果が想像できてしまうような危険な措置をとってしまったということが明らかになったことで、女児を守れなかった野田市の児相への批判もより厳しいものになった。
もちろん今回の事件は悲劇以外のなにものでもないし、メディアの報道内容や、父親(や母親)、更に児相に対する批判は決して間違ってはいない、とボクも思う。
ただ、メディアが連日繰り返し報道した、父親や野田市の児相にだけ焦点を当てる報道については、ボクは若干、というか、かなり違和感を覚える。
もっと言うと、例によって、完全にピントがズレている。ホントに深刻なのは、そこじゃない。

ほぼナイ!」でも取り上げたように、今回の事件は決して「異常な」父親と「ヘタレ」な児相が巻き起こした、普通では考えられないレアな事件、なんかじゃない。
今回の事件は日本のどこでも起こりうる、日本社会が抱える構造的な問題をセンセーショナルに表したのに過ぎない。
少なくとも、今回の事件に驚いた多くの海外の人々はそう考えている。
実際、日本の子どもたちを取り囲む環境は、国際社会の目から見て、決してホメられたものじゃないことは、実は以前から何度も指摘されていた。
日本政府に対しては、国連をはじめとする国際機関や国際的なNGOなど、子どもの人権を監視する人々たちから数多くの批判や勧告の類が寄せられていたのは、まぎれもない事実だ。
子どもの教育や福祉に高い関心を持つ人々からすると、日本の子どもたちはとても先進国と呼べるような立派な環境下に置かれているわけではなく、むしろその逆だ、というのが半ば常識になっている。
けど、こうした「事実」について、日本のメディアの多くはほとんど正確に伝えず、無視するか矮小化して伝えるか、という逃げの姿勢を続けてきた。
大手メディアが問題の深刻さを感じていなかったか、問題を放置し続ける日本政府を「忖度(そんたく)」して伝えなかったのか。
まぁ例によって、実際はその両方だったんじゃないか、とボクは想像している。

日本の子どもたちがどのくらい深刻な状況に置かれているか、またそれを海外の人々はどうとらえていたのか。
それを表す例として、参考ページとして今回紹介しているのが、「ほぼナイ!」でも紹介した、HRWHuman Rights Watch:国際的な人権監視NGO)が2014年の5月に公表した、日本の児童養護施設の実態を調査した “Children in Alternative Care in Japan日本における社会的養護下の子どもたち)” と題された詳細なレポートを挙げておく。
見ていただければわかる通り、このレポートには “Without Dreams(夢がもてない)” という衝撃的な大見出しがつけられている。
そう、まるで内線下の後進国のような扱いで紹介されていて、とても先進国とは思えない子供たちの実態が紹介されている。

更に『ほぼナイ! HEAD LINE』で今回紹介しているのは、国連内の「子どもの権利委員会」(Committee on the Rights of the Child)が2/7に行った記者会見のニュースだ。
女児虐待死のニュースじゃない。
今回のこの記者会見がタイムリーに、って別に全然いいことじゃないけど、本当に偶然に女児虐待死事件とほぼ同じタイミングで行われたことで、多分会見がより注目されることになったかもしれない。
不幸中の幸い、と言っていいのかどうかわからないし、何より被害にあった女児にとっては別に幸いでもなんでもないかもしれないけど。

会見で明かされた「日本政府への勧告」とは

会見では「子どもの権利委員会」が日本政府に対して行った4つの勧告の中身が紹介されている。

  1. 虐待などの子どもに対する暴力の事例が数多く「子どもの権利委員会」に報告されている
  2. 子ども自身が虐待被害を直接訴えることができるしくみがない
  3. 虐待などの正確な実態調査が不足しており(親などの)加害者に対する刑事責任が厳しく問われていない
  4. 虐待防止を包括的に行うための、子どもを含めた教育プログラムが弱い

以上が4つの勧告をかなりざっくりとボクがまとめたもの。

まず 1. だけど「そんな大げさな」と感じる方も多いかもしれない。
ボクが問題だと思うのが、1. で指摘されている「子どもに対する暴力」の認識が、多分日本人と「子どもの権利委員会」とで相当ギャップがある、というコト。
ここで言う「子どもに対する暴力」の中には、例えば親が「しつけ」の名目で子供を叩いた、なんてのも、実は思いっきり含まれている。
この「しつけ」とか「愛のムチ」なんて称する行為が、諸外国では立派な「子どもに対する暴力」なのだ、という認識があるかないかで 1. に対する捉え方が全然違ってくるはずだ。
更に言うと、過去に「運動会の組体操が危険で子どもの虐待に当たる可能性がある」と海外のNGOから指摘され、ワイドショーなどが面白おかしく取り上げたことがあった。
ご記憶の方もおられるかもしれない。
多くの日本人が、この話を冗談のように捉えていたんじゃないかと思うけど、指摘していた海外の人々からすると、画一的に「しつけ」られ、更にそれが半ば強制的に行われる光景を目にした時、例えば北朝鮮の子どもたちが行うマスゲームに対して多くの日本人が感じるのと似た印象を持つと想像するのは、それほど難しいことじゃないし、異常なことでも、大げさなことでもない、とボクは思う。
「運動会の組体操」は一つの象徴に過ぎない。ボクが「ズレてる」と言ってるのはこのコトだ。

2. は特に説明は必要ないと思うので、省略。
今回虐待死した女児が「ヘタレ」の児相なんかじゃなく、直接警察「的な」ところに駆け込むことができていれば、今回の悲劇は絶対防げた筈だ。
そう考えると「子どもの権利委員会」の指摘は全面的に正しいということになる。

3. も特に説明の必要がないだろう。
要するに、日本政府が全く子どもの実態を把握していないし、有効な対策も全く打ててない、と言われてるに過ぎない。
ぐうの音も出ない、とはまさにこのこと。

最後に、これもなかなかボクら日本人が気付きにくい 4. だ。
「子どもを含めた教育プログラムが弱い」とはどういうことか。
これを平たく言えば、日本の子どもたちが「しつけ」「愛のムチ」という名の暴力を、正しいこと(とか仕方のないこと)として教育されてしまっている、ということになる。
暴力を正しい(とか、仕方がない)と思い込まされた子どもが、自分に対する「しつけ」「愛のムチ」を告発できるワケがない。
だって悪いと思ってないんだから。
結果、誰にも知られることなく、暴力の連鎖が続いていく…

「しつけ」や「愛のムチ」という名の暴力(体罰、と言った方が分かりやすいかも)に、実際は何の効果もない、というより逆効果しかない。
暴力で植え付けられた「教え」は力で刷り込まれているだけで、子どもが完全に「理解」しているワケじゃないので、タダの付け焼刃に過ぎない。
このことは、別にボクの信念じゃなくて、教育心理学などで科学的に実証されているハナシ。

因みに「ほぼナイ!」でもご紹介した通り、ボク自身、ボクの両親から、少なくとも記憶にある限り、一度も手を挙げられたコトはない。一度も。
それはもちろん、ウチの両親がボクの教育に無関心だった、ということではもちろん、ない。彼らの名誉のために明言しておく。
彼らの親としての教育スキルが高かった、ということに過ぎない。
そしてその結果、一度も警察のご厄介になることもなく、ボクは50年近い人生を無事に送ってきた。
立派な育ち方をしたか、はボクの判断することじゃないと思うので、えーと、以下省略 🙂

「自民党3つの大罪」とは

結論、めいたものを最後に。
今回の「子どもの権利委員会」やその他のNGOなど、海外の人々がどんなに勧告をしようと批判しようと、彼らには日本の子どもの環境を変える力も権限もない。
それは日本社会全体の仕事だし、それを大きく左右するのは、やっぱり日本政府とか地方自治体の組織とかで、結局は政治や行政の責任が大きい。
その意味でも、今回の女児虐待死は文字通り「国家レベルの児童虐待」の結果だった、とボクは思う。

ほぼナイ!」でも、最後に取ってつけたように「自民党3つの大罪」というのを紹介した。
誰が何と言おうと、ボクは日本社会の大きな問題の一つに少子(高齢)化があって、その原因は長年政権にいてこの問題をとことん放置、どころかマイナスにしかならない政策を打ち続けてきた自民党(の政治家たち)にある、とボクは思っている。
古い家族観や価値観にこだわりながら、中途半端に国際社会に絡み、なんならリーダーシップまで取ろうとした結果、社会のいろんなところにひずみが生まれた。
その最大の被害者が、実は子どもたちだった。
自分の価値観を貫くのも結構だけど、日本政府は UNCRC (United Nations Convention on the Rights of the Child):子どもの権利条約 という国連の条約に批准している。
国際基準にあった教育環境を子どもに提供する国際的な義務があるのだ。

因みに「自民党3つの大罪」とは、「少子高齢化」「巨額の国や地方の財政赤字」「原発の普及促進」なんだけど、これはボクが言ったんじゃない。
ご存じ小泉進次郎議員、その人。思いっきりその自民党のド真ん中の人物。
最もこれを発言したのは自民党が政権復帰する前らしいので、今訊いても、こんな殊勝なことは絶対言わない気がするけど。
ま、少なくともその時点で彼が言ったことは正しいと思うし、全面的に賛成する。

更に。こうした状況をほとんど伝えず放置してきたのは、例によって日本の大手メディアだ。
子どもの虐待死は、残念ながら日本固有の問題なんかじゃない。
「異常な」ヤツはどこの国にでもいる。大事なのは問題が起きた時に、それを隠さず、放置せず、速やかに対処する。
それを指摘し、しかるべき人々(大体は政治家や役人)を正当に批判し、正しい方向に導く。
それがメディアの役目。

今回の女児虐待死のA級戦犯は、今回取り上げた日本社会の問題をほとんど伝えてこなかった大手メディアだ、といういつもの結論。

イサ&バイリン出版 解説兼論説委員 合田治夫

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