安田純平さん無事帰国で「自己責任論」再燃:希少種「会社員ジャーナリスト」(2018.10.31配信分レビュー:その2)

ー ほぼナイ! HEAD LINE ー
<無事帰国を果たしました>
安田純平氏

安田純平氏(写真:産経新聞)

3年前にシリアで取材中に消息を絶ち、武装勢力に拘束されていたフリージャーナリストの安田純平氏が25日に帰国しました。

2015年6月にトルコ経由でシリアに入った安田氏でしたが、まもなくTwitterの更新が途絶え、知人らからの連絡にも反応がなく、消息を絶ちました。一部報道で、安田氏はシリアで活動する反政府武装組織「ヌスラ戦線」に拘束されたとの情報も流れましたが、確認できないまま時間が経過、翌16年に拘束された安田氏の画像が公開され、シリアでの拘束が確定しました。
3年4カ月拘束されていた安田氏の身柄は、10月24日に日本政府が無事解放されたことを確認、翌25日に安田氏は無事帰国を果たしました。
一方、安田氏解放の情報が流れ始めた23日頃から、一部で一連の安田氏の行動に対する批判が巻き起こりはじめ、いわゆる「自己責任論」が再燃することになりました。

(以上 HEADLINE 2018.10.31)

< ほぼナイ! レビュー動画(Vol.39):【 見逃し配信を視聴 (YouTube)】>

『ココがヘン!ニッポンのニュース:安田純平さん無事帰国で「自己責任論」再燃:希少種「会社員ジャーナリスト」

<参考:東洋経済オンライン安田純平さん突然「解放」、背後に2つの要因

再燃した「自己責任論」

3年4カ月という長期にわたり拘束されていたフリージャーナリストの安田純平氏が解放され、無事帰国した。
今回の安田氏のように、外務省が渡航禁止にしたり注意喚起をしているような危険な地域へ自らの意思で出向いた結果として拘束された人に対しては、過去にも「自己責任論」という、よくわからない理論でバッシングされる、という異常な現象がわが国ではたびたび起こる

過去にはイラク戦争時のイラクに人道支援のボランティアで入った高遠菜穂子氏らが拘束された際に、高遠氏らの行動に批判が集中した。
この一件が、多分日本で初めて本格的に「自己責任論」が巻き起こった例だと思う。
この時は、一般人だけでなく、政治家までもが「自己責任」バッシングに大々的に加わるという異常さだった。
因みに、この政治家達の先頭に立って「自己責任論」を展開していたのは当時の安倍晋三自民党幹事長。のちの安倍総理だ。
特に当時のイラクや今のシリアのような危険地域に出向くボランティアやジャーナリストの人々は、いわゆるリベラル系の人が多く、自民党政府に批判的であることが多い。
ということで、「勝手に行ったヤツが悪い」「とりあえず国に迷惑をかけたのだから謝れ」という「自己責任論」という名の意味不明の難クセは、どうも普段の思想信条が気に食わないので、そんなヤツがどうなっても関係ない、ざまぁみろ、と言ってるようにしか聞こえない。
そんな幼稚な議論を国会議員がやるのだから、凄いとしか言いようがない。
政府には(どんな事情があっても)自国民を保護する義務がある、という国際的な大前提は完全にどこかに消えてしまっている。

ところでこの時のイラク人質騒動における「自己責任論」は、先頭にいた安倍氏が突然沈黙し、あっけなくジ・エンド、となった。
当初から世界のメディアは、高遠氏らの行動を称賛し、日本国内の「自己責任論」はおかしい、と批判していたけど、そこでダメ押しの決定打が出たのだ。
それが、アメリカのパウエル国務長官(当時)が高遠氏らの行動を称賛するコメントである。
パウエル氏はTBSの取材に対して「イラクの人々のために、危険を冒して現地入りをする市民がいることを、日本は誇りに思うべきだ」と全面的に高遠氏らを擁護した。
これで(少なくとも「自己責任」と騒いでいた日本の政治家達は)完全に沈黙、ぐうの音も出ない、とはまさにこの事だろう。
所詮、他国の国務長官の発言で簡単に持論を引っ込めるのも、国会議員として問題大アリという気がしないでもないけど。
自らの過ちを認めた上で撤回するならともかく、沈黙→なかった事にする、じゃあ、ただのヘタレですがな。
まぁこれに懲りたのか、今回の安田氏の件では表立って「自己責任」を叫ぶ国会議員はさすがにいなかったみたいだけど、内心は不明。
で、今回目立った「自己責任論」者はどうやら一部のネットユーザーをはじめ一般人のみのようで、高遠氏らの時は一部メディアもバッシングに加担していたけど、今回それはなかったようだ。
あくまで、メディアが取り上げた「自己責任論」は、ネット上などで、「自己責任」を問う声がかなり強く出ている、という「事実」を冷静に伝えるのみだったと思う。

「フリージャーナリスト」という職業

ところで今回被害にあった安田氏は、イラクで拘束された高遠氏らとは決定的に違う点がある。
高遠氏らは人道支援のボランティアだったけど、安田氏はフリージャーナリストという点だ。
安田氏は取材目的でシリアに入国したのであって、高遠氏らとは目的が違う。
なので、日本の大手メディアが安田氏を批判することは、絶対にできない。

安田氏を擁護する声の中で「日本のメディアは自社の記者が拘束されたら「自己責任」だと言えるのか(言えないだろう?だからメディアは安田氏を批判できない)。」というのがあった。
ボクはこの指摘はちょっと違うと思う。
まず大前提として、日本の大手メディアの記者は、そもそも安田氏のような目にあうことは絶対にない。
なぜなら、日本の大手メディアの記者は社内の規定で、危険な場所に取材に行くことを固く禁じられている。
なので、日本のニュースを見ていると戦地やテロ現場のリポートが、関係ない国から伝えられることがよくある。
シリアのニュースをヨルダンから伝えたり、イラクのニュースをクウェートから伝えたり。
つまり、危険な地域は社内規定で入れないので、近隣の安全な国からリポートしてるのだ。
「いや、日本のニュースでも、戦地からリポートしていることがある」と思われるかもしれないけど、それは100%フリージャーナリストだ。
メディアがカネを払ってフリージャーナリストの取材を買っているワケ。
それをヒドいメディアだと、さもそのフリーの記者が自社の記者であるかのように装って報道するケースもある。
記者の所属を明示せずに報道するのだ。
カネを払えばそれでいいのか、という疑問が湧くけど、こういったケースはかなり多い。
特にかつては100%大手メディアはパクリだった。
要するに、大手メディアはカネを出して、フリージャーナリストを危険地域に送り込み、自社の社員の安全は守っている、と胸を張ってるワケだ。

世界的希少種「会社員ジャーナリスト」とは

ということで「ほぼナイ!」で言ったように「会社員ジャーナリスト」である。
ちなみにこんな言葉はない。ボクの造語。
身分が新聞やテレビなどメディア企業勤めの会社員で、職業がジャーナリスト、記者。
そういう方々の呼称としてボクがつくったんだけど、大事なコトは、ボクがこの言葉を「作らなきゃいけなかった」ということ。
実は日本の記者さんの多くは「会社員ジャーナリスト」なのに対し、海外では「会社員ジャーナリスト」はほぼゼロ。
そうなのだ。いないヒトを呼ぶ呼称はない。「会社員ジャーナリスト」なんて英語ももちろん、ない。
海外のジャーナリストはほぼ例外なく、メディアと(通常は年間)契約して仕事しているフリーランス。
あの Anderson Cooper だってCNNの社員なんかじゃないし、トランプの暴露本 “Fear: Trump in the White House” で話題の Bob Woodward だって別にワシントン・ポストの社員じゃない。
会社員、ということは、会社という組織の利害と一体化してしまうことで、自分の責任で取材し、報道するという事ができにくくなってしまう。
だから海外のジャーナリストはフリーランスであることが当たり前なのだ。

情報は記者クラブ経由でもらえばいいし、危険な取材はフリーに行かせて、相手の規模が小さければ名前を隠してさも自社の独自取材のように扱う。
海外のニュースはしょうがないので名前を出すけど、CNNとかBBCとかWSJとか、それはそれでハクがつくから、まぁいいや。
こんな調子で作られている日本の大手メディア発のニュース。
実にお気楽だし、これなら自分達で取材しなくても大丈夫だし、だったら国際基準のジャーナリストなんかいらない。
ガラパゴスなメディア環境に生きる世界的希少種「会社員ジャーナリスト」で十分務まってしまう。

こんな日本の記者クラブメディアに、あえてリスクを冒してでも現場で取材しようとした(結果は完全な失敗だったとしても)安田氏を批判する資格があるワケが、ない。絶対に。

イサ&バイリン出版 解説兼論説委員 合田治夫

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