2017.07.26配信 ほぼナイ!HEADLINE その3 レビュー
<日テレ社長が「異議あり」です>
日本テレビの大久保好男社長は24日の定例記者会見で、NHKが悲願であるTV放送のIPサイマル開始を2年後としていることについて、「民放とのバランスが崩れる」と異議を唱えました。
IPサイマル放送:Simulcast over IP は、電波を経由して放送されている通常のテレビやラジオ番組を、同時(現在は技術上の制約で数秒程度の遅延がある)にネット回線を使って配信する技術で、一般の視聴者は従来の放送と区別することができないほど、違和感なく視聴することができます。
(以上 HEADLINE 2017.07.26)
< ほぼナイ! レビュー動画(Vol.25):【 見逃し配信を視聴 (YouTube)】>
『ココがヘン!ニッポンのニュース:一般視聴者を置き去りにする、身勝手なNHKの「悲願」とは』
<参考:IT情報総合ポータル「ITmedia」> テレビ番組、2019年にもネット同時配信へ? 総務省に現状を聞いた
「NHKがIPサイマル放送:Simulcast over IP 開始へ」と言われても、「ふ~ん」と聞き流してしまいそうだし、「まぁ、便利になるんだからいいんじゃない?普段NHKなんか見てないけど」という感想が多いかもしれない。
IPサイマル放送:Simulcast over IP 自体は、テレビやラジオ番組を、ほぼ同時にネット上で視聴できる技術。なので、例えばラジオのサイマル(例:radiko)だと、パソコンなどのネット機器でラジオをリアルタイムで視聴することも可能になる。
ラジオを持ってないボクとしては、FMの音楽番組を聴くのに、非常にありがたいサービスだ。
更に、電波が届かなくてもネット経由で番組視聴ができるのだから、ネットさえつながる環境に居れば、電波が受信できない場所でも番組視聴が可能になり、難視聴対策にもなる。
もちろん、電波状況によるノイズもなく、音質・画質も通常の放送よりいいワケで、IPサイマル放送:Simulcast over IP 自体は、非常に「使える」技術なのだ。
では、それをNHKがやることに日テレの大久保社長が「いちゃもん」をつけているのはなぜか。
もちろん、直接大久保社長に話を聞いたわけではないので、社長の真意は測りかねるが、恐らく大久保社長は「NHKの悲願」を見抜いているのだろう。
「NHKの悲願」とは、ズバリ、PCやスマホからの課金、である。
ご存知のようにテレビを持っている人は、見ていようがなかろうが、NHKと受信契約を結び、受信料を支払う義務がある、とNHKは主張している。
この「受信料は本当に払う必要があるか問題」は、これはこれでイロイロあるのだけど、とりあえずここでは横に置いておいて、と。
で、最近は特に若者層を中心に、「普段テレビを見ない」という人や、更には「ウチ、テレビないんですけど」という人も結構増えているそうで、それに伴いNHKの受信料収入が減り続けている。
さすがのNHKから派遣された「しつこいオッサン」も、テレビのない家から受信料は取れないのだ。
当たり前だけど。
テレビ離れの加速する中で、何としても受信料を取りたいNHKとしては、必殺技を編み出してしまった。名付けて『「お宅のパソコン・スマホ、実はテレビです」作戦』。
因みにこの作戦は、ボクが勝手に名付けたので、NHKに言っても通じません。悪しからず。
この「お宅のパソコン・スマホ、実はテレビです」、NHKの言い分を平たく言うとこうなるのだが、お分かりだろうか。
受信料収入を増やしたいNHKは、各家庭にテレビをバラマいてでも、テレビの数を増やしたいところだが、まぁそうもいかない。
テレビ離れの加速でテレビ自体が家庭からなくなりつつある中で、テレビの代わりを務めているのがパソコンやスマホ、更にタブレットといったネット機器。
これらのネット機器でYouTubeとかのネット動画を見れば、それで満足、ということだ。
しかしNHKとしては、このままテレビがどんどんネットに移行してしまうと、収入源はどんどん加速してしまう。
そこでNHKは、テレビ番組をネットに流せばいいや、と気づいてしまう。そして、これが『身勝手なNHKの「悲願」』となった。
IPサイマル放送:Simulcast over IP で、NHKのテレビ番組をネットに流せば、パソコンのモニタやスマホ・タブレットの画面にはまるでテレビのように放送が映し出すことが可能だ。
こうなると、もうNHKは止まらない。最初は難視聴対策とか、視聴者の利便性向上とかもっともらしいことを言いつつ、いざサイマルのサービスが始まってしまったら、途端に『「お宅のパソコン・スマホ、実はテレビです」作戦』をNHKが決行することは目に見えている。
「ネットに接続しているパソコンやスマホ、タブレットはすべてテレビと同等」→「ハイ、受信料払ってね」と言い出しかねない。
もちろん、「ボクはテレビ番組は一切見てない」と言っても無駄だ。今でも、テレビは持ってるけど見てない、という主張をNHKは認めてないのだから。
他方、民放の最大の収入源である広告収入は急速に減少している。経済構造の変化や低迷も理由の一つだが、他に指摘されているのが、実はネットの台頭。
各企業が広告収入を抑える中、ネットの広告収入は雑誌や新聞、ラジオの既存メディアを抜き去り、最大の広告収入を誇るテレビとの差を急速に詰めようとしている。
民法各局はネットに戦々恐々としているが、NHKは広告業界がどうとか、もちろん一切関係ない。
それどころか『「お宅のパソコン・スマホ、実はテレビです」作戦』がうまくいくと、NHKは今以上に安定した受信料収入を手にすることになるかもしれない。
日テレ大久保社長の「民放とのバランスが崩れる」というのは、この点を指しているのではないかと推測できる。
実はNHKは既にサイマルに着手している。受信料の対象外のラジオ放送だけだが。
NHKは既に「らじる★らじる」を独自に運営しており、NHKのAM・FM各番組をラジオなしで楽しめる。
「らじる★らじる」は完全無料のサービスだが、これはテレビの受信料収入の一部で運営している。
因みにテレビに関しては、既に民放も行っているオンデマンド配信(放送終了後の番組ネット公開):On-Demand サービス、「NHKオンデマンド」を運営しているが、これが極めて評判が悪い。
なぜなら民法テレビ各局ですら一部無料で行っているオンデマンド配信:On-Demand オンデマンド配信を、「NHKオンデマンド」は原則有料でやっているからだ。
「なぜ受信料で作った番組を有料で配信するのか」、「二重課金じゃないか」、とブーイングの嵐なのだ。
完全に視聴者の利益は無視している、と言っていいだろう。
と、今回はNHK批判に終始したが、実は民放もあまり褒められたものではない。
欧米の放送局は、ネット技術が未熟で動画の配信自体が難しかった時代から、ラジオ番組のサイマルは既にほぼ無制限に行っていた。
日本のラジオは「らじる★らじる」を除き、無制限のサイマルすらほとんど実現していない。
だが、これは技術的な制約ではなく、単に放送局側が「出し惜しみ」をしているに過ぎない。
そしてネットへのコンテンツ提供を出し渋り、ネットを敵視した放送局は、ネットにはびこる違法なコンテンツの対応に躍起になっている。
その一方で、ついにテレビ・ラジオに見切りをつけた大物タレントが続々とネットに進出し、そのCMがテレビ・ラジオに流れるという事態に至っている。
欧米では常識となっているネットと既存メディアの融合に、日本が完全に失敗していることの、象徴のような出来事である。
最後に、「ほぼナイ!」生配信時にボクが話したことを改めて、とゆーか、本来レビューブログってそーゆーコトをまず書くべきなんだよな、多分。
「ほぼナイ!」でボクが強調したのは、NHKが大々的にTVを持たない世帯まで課金対象にしようとしている(『「お宅のパソコン・スマホ、実はテレビです」作戦』)ことに加えて、そもそもNHKはペイテレビ:Pay Television にした方がいい、という点。
ペイテレビというのは、見たい人だけが視聴料を払ってその番組を見るという仕組み。つまり、WOWOWとかに代表される、有料のテレビ放送だ。
ちなみに、よくNHKは国営放送と勘違いされているようだが、税金ではなく受信料が主体(税金もゼロではない)で運営しているので、あえてNHK自身も公共放送と名乗っている。
ただ、国営じゃないけど民放でもない、でも受信料は払わなきゃダメ、とはいえ政府からは独立してますとか、なんか世界的に見てもややこしい上に珍しいシステムで運営されてるし、このNHK受信料自体も「なんで見てもないものに払わなきゃいけないのか」とか、いろいろ不満が出ているので、だったらペイテレビ:Pay Television にした方がいい、と、これは多くの人が言っているけど、まぁNHKは絶対にそんな意見には耳を貸さない。
なぜなら、ペイテレビ:Pay Television にしたら「お金払ってまでNHKなんか見たくない」なんてヒトが続出することをと恐れているんだろう、というのは容易に想像がつくけど、じゃあそんな公共放送はホントに要るのか?ということは、それこそ国民投票でもして決めた方がいいんじゃないのか、と改めて思う。
イサ&バイリン出版解説兼論説委員 合田治夫