バノン氏退任でトランプ政権が安定する?!(2017.08.30配信分レビュー:その1)
<「影の大統領」も失脚しました>
現地18日、スティーブ・ バノン:Steve Bannon 首席戦略官:Chief Strategist の退任をホワイトハウスが発表しました。事実上の更迭と言われています。
Bannon氏は大統領選挙中からトランプ陣営の中枢で活動し、政権内での多大な影響力から「影の大統領」とも呼ばれていましたが、他の政権スタッフとの軋轢も噂されていました。
トランプ政権の掲げる”America First“の生みの親とも言われたBannon氏の退任で、トランプ政権が今後どのように変化するのか(あるいはしないのか)に大きな注目が集まっています。
(以上 HEADLINE 2017.08.30)
< ほぼナイ! レビュー動画(Vol.26):【 見逃し配信を視聴 (YouTube)】>
『ココがヘン!ニッポンのニュース:バノン氏退任でトランプ政権が安定する?!』
<参考:時事ドットコム> 米大統領、最側近バノン氏を解任=保守強硬派、内紛も絶えず-政権運営に影響か
日米のメディアの違いにフォーカスしている「ほぼナイ!」だが、ことトランプ政権についての評価や論調は、かなり似通っている。
もっとも、日本のメディアによる海外ニュース(特にアメリカ関連)は、最終的にはアメリカの主要メディアのほぼ受け売りになっているので、トランプ政権に限らず日本で流れているアメリカについてのニュースは米国主要メディアと似ていても当然だけど。
で、トランプ本人はそれこそ就任前から主要メディアと敵対していて、毎日サンドバッグ状態だが、それはトランプ本人に限らない。トランプ周辺もほぼ例外なく常に叩かれている。
特にずーっと評判が悪い面々の代表格が、バノン氏その人だ。
彼はもともと政治家ではなく、主要メディアから軒並み「極右メディア」と批判され続けているニュースサイト “ブライトバート:Breitbart News Network” の会長、という肩書だった。元々メディアの人間だったワケだ。
そんなバノン氏は大統領選挙でトランプ陣営の選挙参謀として活躍し、トランプ大統領誕生に貢献した。
トランプ大統領の 就任演説:Inaugural Address のスピーチライターも彼だ。
そして、選挙戦からトランプが連呼し続け、すっかり有名になった “America First” の生みの親でもある。
このように、選挙戦の時からトランプに多大な影響を与え続けてきたバノン氏は 首席戦略官:Chief Strategist というこれまでになかった新設のポストにも就いた。
このようにバノン氏の政権内での影響力は大きく、「影の大統領」とまで呼ばれる一方、保守的・強硬なタカ派・極右:Extreme Right …といったくくりが多く、比較的リベラル色が強いといわれるトランプの娘夫妻(Ivanka & Kushner)との対立も伝えられていた。
そうそう、オルト・ライト:Alt-Right なんて呼称もよく使われる。もう一つの右翼、新しい右翼といったところか。ぱっと見は普通の人の良さげだが、その主張は超保守的、極端、排他的、過激なヒトたちを指すコトバらしい。
だが、そうしたイメージとは逆に物事は進んでいる。「ほぼナイ!」で紹介したように、バノン氏は「結果的に」イヴァンカ夫妻より平和的な行動をとっている。
このブログで以前紹介したように、現時点でトランプ政権での唯一の軍事行動であるシリア空爆を「けしかけた」のはイヴァンカ氏だ。
例えそれが苦しむシリアの子どもたちを助けたい、という慈愛の精神からだったとしても。
そして「シリアの事なんか知ったことか、ほっとけ」と最後まで強硬に反対してたと言われるのが、他ならぬバノン氏。
こういう「〇〇の事なんか知ったことか、ほっとけ」という考え方こそが、実は “America First” なのだ。
自分勝手、エゴ丸出しの思想みたいに言われる “America First” は、長年アメリカが世界各国のもめごとに首を突っ込み、「世界の警察」とか言われていい気になってたかどうかはともかく、どれも大した成果は上がらず軍事費ばかりがかさむ、という悪循環を断つことになるかもしれないのだ。
“America First” で世界平和を!って、まぁあくまで結果論なんだけど。
で、7月の「ほぼナイ!」でも紹介した 軍産複合体:Military-Industrial Complex の話。
軍産複合体:Military-Industrial Complex 、ってのは、ものすごく平たく言うと、「軍事で儲けるヤツら」ってこと。
具体的には、武器やそれに関連するモノをつくる業者とか、エネルギー関連で特定の場所で軍事的な争いが起こることでトクする連中も入る。
要するに、なかなか大っぴらには言わないけど、「戦争(チックなイザコザ)が起こったらトクするなぁ→起こって欲しいなぁ」と思ってる連中は全員、この 軍産複合体:Military-Industrial Complex の一味、と思っていい。
だけど、戦争はもちろん被害者がいっぱい出るし、ごくごく一部の連中以外にはマイナスでしかない。
意外に見落としがちだけど、実際に戦争で負傷したりし、家とかが失われなくても、実はそう。
例えば、世界最強と言われるアメリカの一般国民は、ずーっとこの複合体の被害者だ。
アメリカは建国以来、他国に攻め込まれたことは一度もないけど、ここ数十年、いろんな国に軍隊を送っている。世界平和の名目で。
だが、そのウラはこうだ。複合体のメンバーたちが思いっきり商売繁盛。武器を作ったり、兵士を雇ったり。
この戦争に関連する全ての費用はアメリカ政府が払う。軍事費の名目で。政府のカネ、ってことはもちろん税金なので、結局はアメリカ国民が負担しなきゃいけない。
ということで、アメリカ国民は聞いたこともない国に米軍が首を突っ込むことで、多額の借金を背負わされている。
こんな損なことはもうご免だ、外国の事なんか知るか!、ってのが “America First” だったりもする。
因みに、トランプみたいな過激な、露骨な言い方じゃなく、軍産複合体:Military-Industrial Complex に堂々とNOと言った大統領が、過去に一人だけいる。
それがJFK(John F Kennedy大統領)だ。彼が最後にどうなったか、はご存知の通り。彼の暗殺の真相は未だ公式には明らかになってないけど、これは定説だ。
軍産複合体:Military-Industrial Complex に逆らったら、命の保証はない。
「ほぼナイ!」では、トランプは殺されても “America First” を貫いたら、カッコいいんじゃない?みたいなことを冗談半分で言ってみたけど、ボクは半分本気だった。
それくらい、この話は、デカい。そして、こんなスゴいこと(複合体と本気でケンカ)が、トランプなら出来るかもと、彼の熱狂的支持者の一部が期待してるのも事実。
因みに、バノン氏が退任した直後、彼が強硬に主張し、大統領選の公約でもあったアフガニスタンからの米軍撤退はあっさりと取り止めが発表された。
今後も米軍はアフガン駐留を続けるどころか、駐留兵士の増派計画も発表された。
結局、バノン氏は “America First” を快く思わない軍出身の閣僚たちとの権力闘争に敗れた、というのがどうも真相らしい。
直接の退任(事実上の解任)理由となったのは、北朝鮮に対する武力行使の可能性について、思いっきり明確に否定する発言をバノン氏がしたことが「政権の方針に反する」と問題視された、と言われている。
別にトランプやバノンがすべて正しいとも思わないけど、物事にはいろんな側面があることは考えた方がいい。
アメリカの主要メディアは「トランプ憎し」で、トランプに不利な話一色だけど、日本のメディアは当事者じゃないんだから、もっと多様な見方を伝えるべきだ。
イサ&バイリン出版解説兼論説委員 合田治夫