日中のパワーバランス:日本の総選挙が中国共産党大会に埋没した理由(2017.10.25配信分レビュー:その3)

<世界の注目は中国です>
習近平国家主席

Xi Jinping 国家主席

5年に一度の中国共産党大会が18日から24日まで開催され、世界各国のメディアが北京に押し寄せ、同時期に開催された日本の総選挙は完全に陰に隠れました。

中国は途上国と言いながらも、圧倒的な人口を背景に、経済面のみならず、あらゆる面でアジアの、そして世界の中心的な位置を占めようとしています。
共産党の一党独裁という特殊な政治構造を持つ中国は、5年に一度の共産党大会が今後の中国の政治動向を決める最も重要な行事で、重要度で言えば日本で言えば総選挙に匹敵するものです。
今回、習近平Xi Jinping 国家主席を頂点とする現体制の盤石ぶりを見せつけた今回の共産党大会は、日本の総選挙とたまたま重なり、党大会期間中に総選挙の投開票日が行われましたが、世界の注目度という点では完全に共産党大会が凌駕、現在の国際社会における日中の力関係を象徴することになりました。

(以上 HEADLINE 2017.10.25)

< ほぼナイ! レビュー動画(Vol.28)【 見逃し配信を視聴 (YouTube)】>


『ココがヘン!ニッポンのニュース:日本の総選挙が中国共産党大会に埋没した理由

<参考:BBCニュース中国共産党大会開幕 「世界の舞台の中心に立つ時が来た」と習主席

「政策」報道と「政局」報道

定期的(5年に一度)に開かれる中国の共産党大会と違い、日本の総選挙は4年に一度が原則と言いつつ、実際は首相の一存で解散→総選挙というのが自由にできることになってるので、今回のようにいきなり選挙、ということになる。
となると、ニュース性、という点で考えると、日本の総選挙に世界の報道メディアの注目が集まって良さそうなものだけど、実際はそうはなってない。
世界のメディアの報道量を比べれば一目瞭然、世界の目は完全に共産党大会に移っていて、日本の総選挙の注目度は決して高くなかった。
そんな共産党大会は、さすがに日本でも取り上げられたが、やはり時期が総選挙とかぶっていたこともあり、他国のメディアより扱いは少なめだったかも。
ま、総選挙と言えば日本最大の政治イベント、日本のメディアが取り上げて不思議はない。
その分、共産党大会の取り上げ方がどうしても少なくなる。もっとも、日本の報道メディアはそうでなくてもアメリカ以外の海外の報道は少なくなりがちだが。

その共産党大会に関する報道だけど、ほぼナイ!」でも取り上げた通り、報道の内容は相変わらずの「日本らしさ」が目立った。
この「日本らしさ」は何も中国関連の報道に限った話ではなく、どの国の政治報道に関しても、そして国内の政治報道に関しても、同じように目につく。
政治報道は大きく分けると「政策Policy」と「政局Political Situation」に二分される。
よく言われるのが、日本の政治報道はこの「政局」に偏っている、ということ。
「政局」というのは、言い換えれば、ヒト。例えば、政界の権力争いや人事などがこれにあたる。カッコよく言えば、人間模様、かな。

例えば、共産党大会で言えば、今回やたらと耳にしたのが「チャイナ・セブン」。ちなみに英語でも “China 7 (Seven)” 。そのまんま。
共産党、つまりは中国の最高指導部メンバー7名を指す。この7名が共産党大会で決定するので、今回誰がメンバー入りするかが注目された。
あとは、これも党大会で決定する、共産党の規約。中国の憲法みたいな存在だけど、これの中に習近平の名前が入るかどうか。
これが入るかどうかで、習近平の権力基盤が現在どの程度のものかを見る指標になる、なんて解説がついたりしていた。
典型的な「政局」報道だ。「チャイナ・セブン」のメンバー、なんて思いっきり人事なワケで、これまで聞いたことのない中国人の名前が躍る。
彼らの習近平との距離が近いだの遠いだの、バックに誰がいるとか、そんな話ばかり。
問題は、そのメンバーが今後どういう政策を、中国経済や社会に対して打ち出し、更には海外とどういうか関係を築いていこうとしているのか、それを伝えないと意味がないと思うけど、そういった報道は皆無。
人事はそれを読み解くための重要なカギではあるけど、誰が何を考えてるかもわからず、ただただ人事だけ伝えられても、何のことやら。

違和感だらけの選挙報道

国内でも同じこと。今回の選挙報道も、これまで通り無意味な選挙報道が飛び交った。
〇〇党のA候補と△△党のB候補の一騎打ち!は良いんだけど、このAとBがどういう政策をそれぞれ訴えてるのか、ほとんどわからない。
時間が短いからか、と思いきや、長時間の番組でも、選挙区走り回る候補や、しまいには選挙に出てない奥さんやスタッフまで出てくる始末で、いよいよただの人間ドラマ。
親子二代の因縁の対決とか新潟女の闘いとか、そんなんで盛り上げられてもねぇ…
さらにヒドいのは、この一騎打ちが、実は一騎打ちがホントは一騎打ちじゃなかったりとか。
つまり勝手にメディアが有力候補を決めて、その人物だけを取り上げて勝手に盛り上げ、その他の候補はほったらかし。勝手に「泡沫候補」扱い。
そりゃ確かに事前の情勢分析とかで決めてるんだろうけど、メディアにそこまでする権利はないし、選挙結果に全く影響しないとは言い切れないはず。
もしホントに影響しない、というなら、そんな報道やめてしまえ、だし。
メディアにその他扱いされた候補の方々にとっては、勝った負けたは別として、訴訟モノだと思う。供託金のこともあるし。

更にこれもほぼナイ!」で指摘した通り、日本の選挙期間中の情勢調査報道は異常だ。
どっちが有利だ、不利だという投票前の情報は、投票行動に大きく影響するというのは世界の共通認識。
だから選挙期間中の情勢調査報道(A候補優勢とか〇〇党が追い上げてるとか)は、一切禁じている国もあるほど。
少なくとも日本のように頻繁に何議席獲得の見込み、なんて、普通選挙を採用する国でやってる国は、まずない。
なんかいろんな自主規制はメディア内であるけど、結局、世界でも最もアンフェアな選挙報道をやってる国は、間違いなく日本だ。

止まらない海外メディアの日本撤退

最後にほぼナイ!」で話し忘れたことを。
今回の共産党大会と、総選挙報道。その世界での報道量を見れば、アジアの中で世界の注目は完全に中国に移っていて、日本の注目度は明らかに低下していると実感する。
でも、それだけじゃない。今回の総選挙報道を海外メディアで伝えた人々の構成、こっちは実はさらに深刻。
海外メディアに載る日本の報道は、各メディアの日本(東京)支局が伝え、そのスタッフが取材している、と思いがちだが、実はそうじゃない。
もちろん全部じゃないし、今でも各国のメディアは日本支局を持っていてスタッフも配置しているけど、その数はどんどん減っている。
今回の総選挙報道でも、各国制作のテレビ番組の画面や誌面を見ると、Tokyo ではなく Shanghai(上海)や Hong Kong(香港)の文字が多数見受けられた。
既に数年前から多くの報道メディアが、アジアの報道拠点を東京から上海や香港などに移し、日本のニュースもそこから伝える、という現象が起こっている。

もちろんこれは一種のリストラでもあり、海外の報道メディアも経営に苦労しているところは多い。
人員も限られているし、ニュースバリューの低い日本から、発展著しい中国への移動は当然の経営判断だ。
でも、問題はそれだけじゃない。
実際に東京支社で活動していた複数の海外メディアの記者が証言しているコト。
「日本ではまともな取材活動ができない。中国の方がずっとマシだ。だからボクらは中国に行くんだ。」
日本人にとっては衝撃的な証言だ。
いくらなんでも、そんな筈はない。日本と中国を比べたら、日本には言論・表現の自由があるし、報道の自由もある。中国は逆だ。ネットも規制しているらしいし。
確かに、中国には自由がない。日本の自由度は世界有数と国際社会に評価されている。
でも、そのことと、海外メディアが自由に取材できるかどうかは、実は別の話。
これは日本社会の自由度の問題ではなく、日本のメディア構造の問題なのだ。
ほぼナイ!」で何度も批判し続けている、記者クラブKisha-Kurabu という閉鎖的な構造。
この存在が海外メディアを排斥し、日本政府などの取材対象は取材OKを出しているのに、記者クラブがNGを出すという、世界的に異常なことが起きている。
中国は仮に取材対象(政府)がNGを出しても、それは海外メディアだろうが、現地メディアだろうが関係なく出すので、取材する側からすると、中国の方がはるかにマシだし、自由に取材できる、となるのだ。
安倍政権以降、日本の報道の自由度ランキングは下がり続け、現在2年連続72位。先進国中、ぶっちぎりの最下位だ。
これは安倍政権の責任というより、記者クラブの責任である。

イサ&バイリン出版解説兼論説委員 合田治夫

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