一部大手メディアがトランプ発言を誤訳→またもスルー:海外メディアにあって日本のメディアにないモノ(2018.2.28配信分レビュー:その1)

<訂正報道はありません>
Trump大統領

トランプ大統領

一部大手メディアが、現地時間の12日にホワイトハウスで行われた会合でのトランプ大統領の発言を誤訳のまま報道し、ネット上などで多数の指摘が上がっています。

仏通信社AFPの日本語サイト「AFPBB News」に加え、読売系列の読売新聞14日の朝刊及び日本テレビのニュースサイト「日テレNEWS24」に13日、トランプ大統領の発言を誤訳して報道されました。
トランプ大統領が、日中韓などが米国と不平等な貿易を続けている、と主張する中で、一方的に長年米国に貿易赤字を背負わせているとする “
they’ve gotten away with murder for 25 years“『(日中韓は対米貿易において)25年も好き勝手にやっている』という発言を、『日本は『殺人』犯している トランプ氏貿易赤字巡り災難』などと誤訳を報じました
一部のネットメディアなどは報道直後から、こうした報道が誤訳であることを指摘しています。

(以上 HEADLINE 2018.2.28)

< ほぼナイ! レビュー動画(Vol.32)【 見逃し配信を視聴 (YouTube)】>

『ココがヘン!ニッポンのニュース:一部大手メディアがトランプ発言を誤訳→またもスルー:海外メディアにあって日本のメディアにないモノ

<参考:JーCASTニューストランプ「殺人発言」報道で誤訳指摘 当該メディアに見解を聞くと…

トランプ大統領が日本を「殺人犯」呼ばわり?!

トランプ大統領がまたも暴言か、と思った方もいれば、いくらなんでもこれはないだろう、と思った方もおられるかも。
それ以前に今回のニュースを報じていない主要メディアもあるので、ニュース自体を知らない、という方も多いかもしれない。
また、毎日新聞ではこのニュースを「(トランプ氏は)過去25年間(日中韓は)好き勝手やってきた』と批判」と報じている。

それにしても、仮にも大統領が他国を殺人犯呼ばわりなんてするのか、にわかに信じがたい…
という方は、メディア・リテラシーが高いかも。
いくらトランプでもそんなこと言うワケはない、ということで、実際言ってなかった。
毎日の報道が正確だったのであって、「トランプが日本を殺人犯呼ばわり」などと報じたAFPや読売、日テレの誤訳であり、つまり誤報だ。
言ってもないことを報じたら、それは一般には誤報と言われる。
しかも今回は相手がアメリカの大統領、ヘタをしたら国際問題に発展しかねない。

問題は誤訳にあるのではない

トランプの発言した they’ve gotten away with murder” は、パソコンやスマホの機械翻訳でも、本来の英語の慣用句として「好き勝手やっている」と正しく訳されるらしい
そんなワケでネットでは、読売の英語力は機械翻訳以下、とか、かなり盛り上がっていた。
曲がりなりにも、ウチ(イサ&バイリン出版)は英語を生業にしている。
英語の誤訳、となると見過ごすわけにはいかない、と言いたいところだが、実は今回の問題は誤訳が本質じゃない。
誰にだって間違いはある。だって人間だもの(みつを)

ウチは間違いには至って寛容な、そんなステキな語学スクールを運営してます。良かったらぜひ。

さて本題。
さすが、というべきか、間違いに気づいたAFP(正確には日本語版ウェブをつくる別会社)はすぐに誤訳を認め、記事を訂正した。
AFP含め、海外のメディアでは、いたって普通の対応です。海外のメディアにもミスはしょっちゅうある。
誤字脱字はもちろん、情報そのものが違っていることもある。

残るは、読売と日テレである。
まず、同じようなミスを立て続けにこの2社が犯したことで「だから言わんこっちゃない」とボクは思った。
これまで「ほぼナイ!」で何度も取り上げてきた、「クロスオーナーシップMedia Cross-ownership」だ。
新聞社がテレビやラジオといった他のメディアを所有する、資本関係がある、という日本では当たり前の構図。
読売>日テレ>アール・エフ・ラジオ日本とか、産経>フジ>ニッポン放送とか、毎日>TBS>TBSラジオとか、朝日>テレ朝とか、日経>テレ東>ラジオNIKKEIみたいに、
日本の大手メディアは大体他のメディアとカネで繋がってて、日本は今でも新聞が一番、ってことになってるので、新聞がテレビやラジオにカネを出す、ってことになってる。
これがクロスオーナーシップMedia Cross-ownership」で、欧米では規制されるのが常識で、日本みたいにこんなに堂々とやったりはしない。
当たり前だけど、カネが絡むとなにかと面倒になる。お互い批判しにくかったりするし。
それに、せっかく異なるメディアがあることで、報道の切り口が増え、多様性が拡がることにつながる筈なのに、
同じ系列の別メディア同士の報道は似たものになってしまいがちだ。
例えばTBSテレビとTBSラジオの報道は似通っていることが多い、みたいな。
だから海外では「クロスオーナーシップ」はダメだよ、ってことになってる。
健全なジャーナリズムが機能しなくなるから。
実際、日本のメディアは系列の別メディアが使ったネタや資料をそのまま使いまわす、なんて荒業も平気でやる。
アンタ達にはジャーナリストのプライドってモノはないのか、と言いたいところだけど、ないんでしょうね、多分。

もちろんボクは内部の人間じゃないので、推測の域を出ないけど、時系列から推測すると、まずAFPが誤訳し、それを日テレがパクリ、更にそれを読売がパクった。
大体こんなとこだろう。出元がひとつじゃないと、日本の大手メディアが相次いで機械翻訳に惨敗、という悲しいハナシになってしまう。
しかし、ボクの推測が正しければ、実は海外では誤訳以上にとんでもないコトになる。
系列であること自体問題で、系列間で独自取材もせずにそのままニュースを使いまわす、というのは更にとんでもなく問題なんだけど、今回、AFPと読売系列には何の関係もないので問題は更にデカい。
読売系列二社はこともあろうに全く関係のない他社のニュースを黙ってパクる、という海外メディアではあり得ないタブーをやってのけた疑いが濃厚なのだ。
そのパクったニュースがとんでもない誤訳だった、というオマケ付きで。
でもこんな話、日本のメディアではしょっちゅうなのだ。

過去にもあった「誤訳のパクリ」

誤訳のニュースを他社がパクる。そんな、文字通り「恥の上塗り」が過去にもあった。
ほぼナイ!」でもご紹介した、オバマ大統領(当時)のスピーチである。
この時の誤訳はもっと豪快(?)で、しかもやらかしたのは天下のNHK。
日米首脳会談後のスピーチで沖縄の基地問題に言及したオバマが “from Okinawa to Guam” と在日米軍基地の移転について述べた箇所を、このスピーチを生中継したNHKの同時通訳は、なんと「普天間から辺野古」と全く違うハナシにしてしまった。
本来なら基地の県外移転を望む多くの沖縄県民にとっては朗報となるはずのオバマ発言を誤訳、何故か日本政府の希望を叶えるかのような普天間基地の辺野古移転をオバマが後押ししているかのような、全く違うハナシに変えてしまった。
NHKの同時通訳者と言えば、通訳の中でもトップ中のトップ、本来固有名詞を間違えるようなミスはあり得ない。
このヒト(NHKの同通者)は、多分、外務省が事前に用意した資料(は当然辺野古移転ありき)をみて、沖縄の基地問題=辺野古移転、という図式が刷り込まれていたんだろう。
強い先入観が誤訳を招いた、ってコトでしょうね。

このNHKの誤訳だけでも大変な話だが、問題はさらに続く。
翌日の新聞で各社揃いも揃って、オバマが辺野古移転に言及した、などと恥の上塗り的報道を行った。
オバマのスピーチを聞きなおした上で記事が書けるはずの現地取材をする英語に堪能な筈の大手紙の記者が、しかも各社全く同じ間違えを犯すはずがない。
これもボクの想像だけど、まず間違いないだろう。
記事を書いた記者が、NHKの放送を見てそのままそれを記事にしたのだ。
NHKの放送をそのままパクって、しかもその放送で行われたのは世紀の誤訳だった、というオチ。
こっちの方が、今回よりも罪深い、とボクは思う。
まぁ、目クソ鼻クソ、なのかもしれないけど。

海外メディアにあって日本のメディアにないモノ、とは

それにしてもこのハナシ、しゃべっても書いてもイヤになる。
情けないというか何というか。
なのであっさり結論。
「海外メディアにあって日本のメディアにないモノ」とは、ズバリ “Corrections訂正” だ。
海外メディアの多くが、これを紙面や番組内でコーナー化している。
< The New York Times : Corrections >
ご覧のように、ほぼ毎日訂正が行われており、報道にミスがあることを前提にしているのだ。
日本のメディアには存在しない。日本では仮にいやいや訂正するときも、極力目立たせず、どう間違ったかもごまかしたりする。
間違いを認めない、失敗を認めない日本社会を反映しているのかも。

ミスを認めない日本では、訂正が大々的に行われていない。
多分ミスが見つかったら、会社の廊下で正座でもさせられるのだろう。
なので、往々にして、日本のメディアはミスをなかったことにする。
今回も結局、正々堂々と訂正したAFPと違い、日テレはこっそり記事ごと削除した。気づいたら消えてた、というヤツだ。
読売は後日紙面に訂正を出すこともなければ、ウェブ版の記事を完全に放置プレイ、と完全に開き直っている。
ミスの内容と違い、対応には一応独自性を出した格好だけど、まぁ両社とも褒められた対応じゃない。
どっちの対応も、日本のメディアではおなじみとなっている。

最後にもう一度強調しておく。
あ、一応断っておくけど、もちろんこれは相田さんのパクリです。
ボクはちゃんと認めます。オマージュとかワケのわかんないこと言ってごまかしたりはしません。キリッ。
ということで。
ミスしたっていいじゃないか。だってにんげんだもの。

イサ&バイリン出版 解説兼論説委員 合田治夫

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