財務省、ドタバタ劇続く:問われる日本社会の「質」とメディアの「ダブルスタンダード」(2018.4.25配信分レビュー:その1)
<財務省のドタバタが止まりません>
森友問題の文書改ざんなどの不正、事務次官のセクハラ疑惑と不祥事の続く財務省では、国税庁と省のトップが共に不在という異常事態で、海外メディアも大きく取り上げています。
省内で役人トップの地位に座る事務次官。省のトップである大臣に次ぐ立場で、実質的にはナンバー1とも言われる、文字通り大物中の大物です。
一方、財務省の外局で本省から独立し、国税に関する強い権限を持つ組織である国税庁のトップが国税庁長官。
この財務省の重要ポスト2つが相次いで実質的な更迭処分により共に空席になるというのは異例の事態で、海外でも経済メディアは今後の日本経済絵の影響を中心に、一般メディアでは安倍内閣の求心力の低下や日本社会のセクハラに対する意識の低さなどに着目した報道が目立ちました。
(以上 HEADLINE 2018.4.25)
< ほぼナイ! レビュー動画(Vol.33):【 見逃し配信を視聴 (YouTube)】>
『ココがヘン!ニッポンのニュース:財務省、ドタバタ劇続く:問われる日本社会の「質」とメディアの「ダブルスタンダード」』
<参考:NewSphere> ついにここまで? 海外メディアの見る安倍政権のゆくえ、日本経済への影響
財務省の不祥事、海外メディアはどう伝えているのか
森友事件での文書を巡る財務省の一連のドタバタ(ずさんな文書管理・国会での虚偽答弁 etc)は、ほとんど事態が進まないまま一年が過ぎ、ついに財務省の様々な不正が明らかになってきた。
「忖度」という流行語まで生まれたこの騒動は、日本人ですら書くことはおろか読むことすらできないヒトが多いのに、海外メディアでは当然のようにこの騒動は理解されない。
実際、海外メディアの中には一連の騒動について「忖度」が理解できず、結局 “Son-tack” とそのまま伝えるところまで出たくらいだ。
因みに彼らが理解できないのは、「忖度」というコトバの意味なんかじゃなく、なんでエリート中のエリートであるはずの高級官僚たちが全く非合理で理解できない行動を連発し、無理に説明しようとしたら、それは安倍総理に対する「忖度」なんだろう、という事にするしかないという、この状況がワケわかんない、ということなのだけど。
当たり前だ。我々日本人だって全く理解できない(だからこそこんなに大騒ぎになってる)んだから、海外メディアの記者に分かるワケがない。
ということで、海外メディアはこんなワケのわかんないハナシにいつまでも付き合ってくれるほどヒマじゃないし、そうでなくても国際社会の中で日本の存在感はどんどん低下している。
オマケにたまにデカいことが日本で起こると、今回のように「日本特有の様々な事情」で理解不能なハナシばかりだし、更にご丁寧なコトに、そんな極東の島国に興味を持ってくれる奇特なジャーナリストがあらわれても、その取材は記者クラブによって(クラブのメンバーじゃない海外の記者は)徹底的に排除されるので、ロクな取材もできないしどうでもいいや、という事で、まずまともに扱われない。
一番大きく扱っているのが経済系のメディアで、具体的には WSJ (The Wall Street Journal) とか、日経と提携したけど当然のように記者クラブの壁は依然高い FT (Financial Times) とかの世界的な経済紙や、テレビだと CNBC のような経済専門チャンネルは今回の騒動をかなり大きく取り上げている。
その内容は、今後のアベノミクスはどうなる、今回のドタバタで円は下がるのか、日本株は買いなのか、というカネのハナシ一辺倒。
日本の政治はよくわかんないけど、政治がボロボロでも各企業は元気なところが多いようだから、ま、日本経済はとりあえず長期的には大丈夫じゃない?みたいな。
実はこんな話はこの数年、どころか数十年変わってなかったりする。政治はダメでも民間(企業)はOK、という。
この責任の一端というか大部分は、海外メディアに正確な日本の姿を伝えることを怠ってる(というかジャマしてる)記者クラブにあるとしか思えないけど、もちろんそんなことを記者クラブメディアが伝える筈もなく。
海外の一般メディアで伝えられていることとは
それ以外の、例えば安倍政権の今後はどうか、みたいなハナシはそんなに注目されてない。
日本の政治の注目度は、昔っから低空飛行が続いている。
それでもたまに出ると、こんな感じになる。
< The New York Times : As Scandal-Tarred Abe Meets Trump, ‘the Situation Is Getting Dangerous’ >
日本のメディアと違って “Son-tack” のない海外のメディアは、さすが直球。
「Scandal-Tarred Abe(スキャンダルまみれの安倍総理)」なんて、朝日新聞でもなかなかお目にかかれない。
そんな中、今回の財務省ドタバタ劇の中で、唯一と言っていいほど大きく海外メディアに取り上げられている話題がある。
福田淳一前事務次官のセクハラ疑惑だ。疑惑というか海外メディアでは今回のような場合、完全にクロとして扱う。
セクハラ騒動自体は世界各国で起こってるけど、そんな中で(少なくとも先進国では)まず優先されるのは被害者の立場だ。
そんな中、被害者は財務省の用意した弁護士に名乗り出てこい、それがどうして批判されるのか理解できない、とか、完全に恥の上塗りである。
そんな状況でも、ギリギリまで福田氏をかばい続けた財務省と安倍内閣。
「そもそも安倍内閣は、先進国の中で未だに男尊女卑を引きずる古い日本社会をようやく改めて、女性活躍、とか宣言してたんじゃなかったのか。
まぁあんまり本気にしてなかったけどさ。それにしてもこりゃあんまりだろ…」
と、以上、ボクの意見ではなく、多くの海外メディアの論調。
それに時期も悪かった。去年から続くアンチ・セクハラの動き「#MeToo」は世界的なムーブメントだ。その最中に…ないな、コレは。
以前にも「ほぼナイ!」で言ったと思うけど、セクハラは単に女性の問題じゃない。
要は弱い者イジメの延長線上に性的要素が加わっただけで、要はパワハラなのだ。
つまり誰にでも起こりうる話で、男が「#MeToo」なんてヘン、という論調も一部であるみたいだけど、これも日本を出るとまぁ通用しない。
そもそも「#MeToo」が去年出てきた時点で、「#HowIWillChange(どう変わっていくか)」をネットに拡散させて「#MeToo」を盛り上げたのは、男性だ。
ご存じない方、忘れちゃった方は以前のレビューブログをご一読ください。
それにこれも以前ご紹介した、性的マイノリティ(LGBTQ)の観点からしても、「#MeToo」イコール女性のハナシ、という決めつけは先進国では通用しないんですよ、釈迦に説法、ですけどね。
あ、あなたですよ、「グローバルな視点」をお持ちの各局コメンテーターの皆さん。
やっぱり出た、大手メディアの「ダブルスタンダード」
そして一連の報道の中で、ついに大手メディアお得意の「ダブルスタンダード」が炸裂した。
あのTBSがBSの番組内で今回のテレ朝女性記者の被害告発について「日本初の#MeToo」などと紹介してるのを、ボクはたまたま耳にしてしまった。
番組は福田氏の行為を全面的に批判した上で、一部で指摘されていた女性記者の行為に問題があるという一部の指摘に反論し、被害者である記者を擁護するものだった。
これを「ダブルスタンダード」と言わなきゃ何と言うのか。
そもそも「日本初の#MeToo」が今回の女性記者の告発、などというのは完全な誤報。
「日本初の#MeToo」、つまり日本で性暴力やセクハラなどの性的被害に対して社会に声を上げた被害者は、「ほぼナイ!」で何度もご紹介している伊藤詩織さんだ。
(詩織さんより前に勇気をもって声を上げている被害者の方が過去にいらっしゃったことも付け加えておく)
それどころか詩織さんが最初に声を上げたのは、「#MeToo」が世界的に拡がるはるか前のハナシだった。
そして、海外でも性的事件の被害者が声を出すのは勇気がいるという認識が一般的な中で、詩織さんの存在は海外メディアにあちこちで何度も取り上げられている。
< POLITICO : Saying #MeToo in Japan >
因みにこの “POLITICO” はアメリカの有名な政治専門メディアで、日本の報道番組とかにもたびたび名前が出てくる。
ということは、これほどデカデカと取り上げられている詩織さんの話を、日本のメディア関係者が知らないと考える方が不自然だ。
他にもNYT (New York Times) とかの英語メディアももちろん大きく取り上げてるし、ボクが全然読めないのであえてスルーしてる、フランス語とかの英語以外のメディアでもたくさん扱われてるけど、優秀な大手メディアの記者の方々(これはイヤミじゃない)の中には読める方もいらっしゃるだろう。
要するに、日本のメディアが詩織さんの話を知らない、なんてことはあり得ない。
それを、さも当然のように日本の大手メディアが無視し続けているのは完全に確信犯だし、何より今回は当事者(事件当時の加害者の所属→その後事件を意図的に公表せず放置=隠ぺい)であるTBSでの発言だ。
「どのツラ下げて…」という言葉しか出てこない(怒)。
更に許しがたいのは、これはTBSに限らずどの大手メディアも同じだけど、彼らは「自分の事を棚に上げる」ってことを、もうずーーーっと続けている。
例えば、自社の不祥事はスルーするか小さく伝えるけど、他社の不祥事はまるで鬼の首でもとったように大騒ぎする、とか。
言い出したらキリがない。
そして何より卑怯なのが、報道の対象が自分に火の粉が飛んでこない(自分より弱い立場にいる)安全パイ、と判断するや否や、記事や番組内で「時の人(森友で言えば籠池夫妻とか、立場の厳しくなった財務省役人)」を猛バッシングしておきながら、相手が自分達より強い、もしくは上層部のしがらみ等で避けた方が無難と判断した相手は絶対に手を出さない、もしくは手加減する。
安倍総理とその周辺、そして何より典型的なのが批判はおろか一度もメディアに登場しない加計学園の理事長、加計孝太郎氏。
加計問題なんて「不透明な部分が多い」「わかりませんねぇ」なんて言ってるヒマがあるなら、本人に訊けばいいじゃん。でも絶対行かない。
後ろ盾のいない(あるいは失った)一般人とか、弱小(^^;事務所所属の芸能人はガンガン追い回すクセにね。
まさに「ダブルスタンダード」。
ちなみに「ダブルスタンダード」は、英語でも “Double Standard” で和製英語じゃありません。
ただ、英語ではもちろん、ネガティブなコトバとして使われるけど、日本のメディアの世界では、ポジティブな意味、または当然の事と考えられています。やれやれ。
イサ&バイリン出版 解説兼論説委員 合田治夫