ミャンマー大統領府がロヒンギャ問題で独立調査委を設置:「中立国」日本は救世主になれるか(2018.8.29配信分レビュー:その1)
<ロヒンギャ問題の打開策となるでしょうか>
先月30日、ミャンマー大統領府は混迷するロヒンギャ問題の独立調査委員会設置を発表しました。外国人を含む調査委員会の設置ははじめてです。
過去にもロヒンギャ問題に関する調査は実施されていますが、ミャンマー政府の影響力が強い中での調査で、国連などが 民族浄化:Ethnic Cleansing と批判する状況であるにもかかわらず、問題の存在自体も認めないという国際社会の信頼性を得たものではありませんでした。
今回、ミャンマー政府が政府から独立したロヒンギャ問題の調査委員会を設置するのははじめてで、国際社会のミャンマー政府に対する強い批判を受けてのものとなります。
なお、4名で構成される委員会は、フィリピンのロサリオ・マナロ 元外務副大臣を議長とし、日本の大島賢三 元国連大使、ミャンマー人の元憲法裁判所長官とユニセフ元職員がメンバーとなっています。
(以上 HEADLINE 2018.8.29)
< ほぼナイ! レビュー動画(Vol.37):【 見逃し配信を視聴 (YouTube)】>
『ココがヘン!ニッポンのニュース:ミャンマー大統領府がロヒンギャ問題で独立調査委を設置:「中立国」日本は救世主になれるか』
<参考:現代ビジネス> 5問でわかる「ロヒンギャ問題とは何か?」スーチー氏が直面する壁
未だ解決の糸口すら見つからない
「ほぼナイ!」第一回目から取り上げてきた「ロヒンギャ問題」は、ついに3年を超えてしまった。
国際社会からこの問題を懸念し、ミャンマー政府に対する非難の声が上がっているにもかかわらず、問題は解決の糸口すら見えない。
そればかりか、問題の長期化で当のロヒンギャ難民は肉体的にも精神的にも疲れ切っている。
去年の9月の「ほぼナイ!」配信では、ミャンマー民主化の象徴であるスーチー氏を巡る報道を中心にご紹介したが、あのスーチー氏をもってしても、この約1年、少なくても結果的には何もできないまま問題の悪化を放置し続けていたことになる。
ミャンマーに限った話ではなく、どこの国でもそうだけど、宗教を巡る問題は厄介だ。
世界最大で、かつ現在進行形の問題で最長の宗教を巡る問題・対立と言えばイスラエル(ユダヤ教)とパレスチナ(イスラム教)の対立がすぐ思い浮かぶけど、「ロヒンギャ問題」でのミャンマー政府やミャンマー国民(仏教)とロヒンギャ(イスラム教)の対立も同じくらい厳しい。
比べるような話じゃないかもしれないけど、両者がいがみ合うパレスチナ問題と違い、一方的に弾圧され国籍すら与えられず、住む場所も奪われたロヒンギャの大多数は何の抵抗する術も持たないだけに、パレスチナ問題以上に深刻な問題、という側面もある。
大きな一歩?!独立調査委
とにかく「ロヒンギャ問題」が深刻なのは、問題を解決すべき当のミャンマー政府が、問題自体の存在を認めてないことにある。
堂々と「問題がない」と言い切っているのだから、解決しよう、という動きを起こす筈もない。
あのスーチー氏ですら、海外メディアの取材で「ロヒンギャ問題」について問われ、「そんなものはありません!」と逆ギレしたというくらい、ミャンマーにとってこの問題はそもそも「ない」。
なぜ「ない」かというと、非ロヒンギャである大多数のミャンマー人にとって、ロヒンギャは外国人(ミャンマー人じゃない)という意識が強いので、ミャンマーの国籍を与える気もなければ、居住権を与えなきゃ、という発想もないようだ。
なので、当然ミャンマー人が「ロヒンギャ問題」を調査すれば、当然のように「問題がない」、という結論になる。
「許可もなく勝手に」ミャンマーに住んでいる(とミャンマー政府は思っている)ロヒンギャは不法入国者とか不法滞在者、という事になり、じゃあ出ていけ、というのはある意味当然だ。
日本政府だって不法滞在者には出ていけ、と言うし、拒否したら強制的に追い出す。
さすがに(ロヒンギャが経験しているように)暴行したりレイプしたり、ということはもちろんしないけど。
けど、ロヒンギャは昔っからちゃんとミャンマー(昔はビルマ)の中にあるラカインというところに住んでいた。
昔っから宗教の違いで冷遇はされても、今のように迫害を受けることはなかったそうだ。
それが政府の方針転換で「勝手に」外国人にされちゃったんだ、おかしいじゃないか、というのがロヒンギャの言い分。
日本とかにいる 不法滞在者:Illegal Alien, Illegal Overstayer とは違う。
ということで、とりあえず、「ロヒンギャ問題」がある、という事を認めることができないと、問題は絶対前に進まない。
今回、ミャンマー人以外がメンバーに加わった、なおかつミャンマー政府が一切介入しない(という事になっている)独立調査委がはじめてできた。
この調査委が「ロヒンギャはミャンマー人だ」と認め、ロヒンギャが不当な扱いを受けているという事を(国連とかと同じように)認める報告を出せば、これは大きい。
なぜなら今回の調査委はミャンマー政府の依頼でできた委員会なので、その委員会の出す調査報告をミャンマー政府が無視することは非常に難しいと予想されるからだ。
自分で選んどいて、気に入らない報告を出して来たらシカトする、なんてことをミャンマー政府がやるつもりなら、はじめっから調査委なんか作んなきゃよかったという事になるワケだし、国際社会の批判は今以上に大きくなることは目に見えている。
先日、大島氏はじめ調査委のメンバーがスーチー氏と面会した際に「よろしくお願いします」と言われていて、このシーンは世界中に報道されている。
スーチー氏はじめミャンマー政府は今度こそマジだ、と思いたい。
カギを握るのは大島氏
普段は海外の、しかもミャンマーみたいなはっきり言って小国のモメ事なんて見向きもしない日本のメディアも、今回日本人の大島氏が調査委に入ったことで、急に報道しだしたので、久しぶりに「ロヒンギャ問題」にスポットが当たることになった。
まぁ理由はなんであれほったらかしよりはいいと思うので、悪く言うつもりはないけど、ボクの思ってた通り、もともと興味も関心もない問題なのでもう飽きたらしく、またほったらかしに戻りつつある。
ところで大島氏、記憶力の良い方や、原発問題の関心が高い方は既にご存じだったかもしれない。
大島氏は、元国連大使、という肩書を見ればわかる通り、もともと外交官で外交問題のエキスパートなワケだけど、最近では3.11後の原子力規制委員会の委員で知られていた(既に退任)。
外交官がなんで原発問題の委員なんかやってんだ?ってカンジだけど、本職の外交の職を定年や任期切れでお辞めになっていたので、政府の方針に異を唱えそうもない人で名の知れた人物という事で選ばれたのだろう。
政府が「かたちだけ」つくる委員会の人選としてはよくあるパターンだ。
お陰で脱原発の人たちから相当悪く言われてた時期もあったけど、今回は本職。期待したい。
今回4名の調査委のメンバーで、大島氏がキーパーソン、とボクは思っている。
調査委が報告書を作る段階で、多分2名のミャンマー人はミャンマー政府より、つまり反ロヒンギャの立場をとることが予想される。
そうすると残るは大島氏と議長。議長が大島氏に意見を求めたときに、大島氏が毅然としてロヒンギャ支持の立場をとれば、議長も賛成しやすくなり、結果2対2になる。
そうなると議長の意見が優先されて、結果ロヒンギャに有利な結論が出ることになる。
大島氏に限らず、日本人は今回の問題に関して、宗教的にもいい意味で「色がついてない」し、それ以外にも、そもそも日本は割と政治的に中立と思われていて、好意的に見てくれている国が多い。
ミャンマーも日本に対する感情は決して悪くはないようだ。
「ロヒンギャ問題」の仲裁者として、日本人は適しているのではないか。
スーチー氏も、そのあたりの事を見込んで、大島氏を選んだのではないか、とボクは思う。
カギを握るのは、大島氏だ。
イサ&バイリン出版 解説兼論説委員 合田治夫