<「なおみちゃん」フィーバーが続いています>
大坂なおみ選手

大坂なおみ選手(写真:共同通信)

今期の女子テニスツアー3勝目を目指した大坂なおみ選手は「東レ パン パシフィック オープンテニス」に出場、23日の決勝に進出しましたがカロリナ・プリスコバ(Karolína Plíšková)選手に敗れました。

日本人テニス選手個人で初のグランドスラム制覇を今年の全米オープンテニスで果たした大坂なおみ選手
インタビューで、自身の呼称は何がよいかを問われた際に『「なおみちゃん」(の方)がいい』と応えたことから、一気に「なおみちゃん」の愛称が拡がり、一躍時の人となりました。
つたない日本語に加え、飾らない率直な人柄を感じさせるネイティブの英語での発言は、世界のメディアで全米オープン前から注目されていました。
プレーでは典型的な Big Serverビッグ・サーバー であると同時に、過去にはメンタル面の脆(もろ)さを試合中に見せることも多かった大坂選手の、今後の更なる飛躍が期待されます。

(以上 HEADLINE 2018.9.26)

< ほぼナイ! レビュー動画(Vol.38):【 見逃し配信を視聴 (YouTube)】>

『ココがヘン!ニッポンのニュース:過熱する「なおみちゃん」フィーバーと日本のスポーツジャーナリズムのレベル:テニスなんかどうでもいい?!

<参考:AERA dot.(アエラドット)大坂なおみが記者に苦言 会見全文「リラックス法はコンビニ、プレステ。最後の質問がこれでいいの?」

「盛り上がれば何でもアリ」

まさに一躍「時の人」だ。大坂なおみ選手が遂にグランドスラムで勝って「しまった」。
男女通じて日本人選手が史上初めて、テニスの最高峰である4大大会(通称 グランドスラムGrand Slam)の一つ、全米オープンで、しかも過去の絶対的王者、セリーナ・ウィリアムズ(Serena Jameka Williams)を決勝で破っての快挙だ。
一応父と姉がテニス経験者でテニス観戦好きのボクとしては、にわかに信じ難い話だ。こんな日が現実に来るとは。

しかし、残念ながら、というか、またも当然のように、日本のメディアにとって、日本テニス界の快挙、なんてどうでもよかったようだ。
結局多くの大手メディアにとって大坂選手の快挙は、以前の「ほぼナイ!」でも取り上げた、ノーベル賞受賞とかのバカ騒ぎと同じ、「よくわかんない(または興味がない)」けど「盛り上がれば何でもアリ」的なハナシだとしか思えない。
大坂選手優勝の夜、各局のスポーツニュースはこぞって大坂選手の快挙をスポーツニュースで取り上げた。
そして、これはオリンピックとか他のスポーツの国際大会同様、普段は番組内で見向きもしないクセに、いざ優勝しそうとなると急に盛り上がる、という悪癖が発動。
しかし、時すでに遅しで、大会前なら余裕で取れたはずの放映権は取れず、衛星放送など(今回はWOWOW)に中継権を先に奪われてるので肝心の試合の模様は限定的か酷い時は静止画、というお決まりのパターンだ。
しょうがないので、事後の番組(スポーツニュース)で無理やり盛り上げを図るべく、大坂選手に生インタビュー、となったのだけど、これが今回は酷かった。
まず、大坂選手はあまり日本語が堪能ではない。はっきり言えば、ヘタ。当然だ。彼女は幼少期に渡米しており、基本的にアメリカ人として育っている。
こんなことは、当然メディア各社も承知している。現地には同時通訳がついていた。
問題は、言語以前の問題だった。日本のスタジオから大坂選手に質問を投げかけるインタビュアー(各局のアナウンサーなど)には、どう好意的にみても事前の情報が完全に抜けていた。

今回の全米オープン決勝は対戦相手のセリーナが明らかに試合中冷静さを欠いており、審判に対し抗議を繰り返し、ペナルティを課されて失点、更に逆上したセリーナがラケットを叩き割る、という大荒れの状況だった。
しかも、自国選手のセリーナに対する感情からか、米国の観客の多くが審判に対しブーイング、この異様な状況に試合後の表彰式では大坂選手が(明らかに勝利に感極まって、ではない様子で)泣き出すという、前代未聞の大会だったのだ。
世界のメディアもこの前代未聞の事態を通常の全米オープン以上に大きく取り上げ、まさに大坂選手は世界で「時の人」となった。
いや、実際には大坂選手以上にセリーナが賛否両面で取り上げられたのだけど。

そんなメディアとしてはこの上ない格好の「ネタ」があった上での放送本番だ。
一方の当事者であった大坂選手に訊きたいことは山のようにある。
時差の関係で、激戦の翌早朝に叩き起こされた(か、眠れないまま連れてこられている)大坂選手の機嫌はともかく、生で質問できる大チャンスだ。
例えテニスが日本で国民的スポーツじゃないとしても、それ以外にも取り上げるべき話は、まさにテンコ盛りの状態だった。
にもかかわらず、各局の繰り出す質問は、試合中の状況や内容についてはほぼゼロだった。
「今の気分は」はまだいいとして、信じられないことに「勝負メシは?」とか、まず間違いなく世界のどのメディアよりもポンコツな報道だった。
まず、インタビュアーがテニスをほとんど知らないか、普段観ていないとしか思えないし、決勝の現場で何が起こったか、事前にネットを見ていたボクでも知っていた内容すら知らなかったのではないか。
ついでに言うと、恐らく何らかの理由で大坂選手には質問が正確に伝わっていなかったように感じた。
質問と答えがかみ合っていない場面も多かったので、通訳者がまさかそんなことは訊かないだろう、という質問の連続でパニックしてしまったのかもしれない。
だったら直接英語で質問して、大坂選手の答えを日本のスタジオで誰かが和訳すればスムーズにいく筈だけど、それもなかった。
それができる人材がスタジオに誰もいなかったのだろう。
何と日本語ネイティブじゃない大坂選手の生インタビューを、英語ネイティブゼロでテニスにも無関心という、超チャレンジングな布陣で各局臨んでいたのだ。
凄すぎる 😯
ついでに言えば、一局だけ、杉山愛さん(元世界ランク8位、ダブルスでは1位)が出演していたが、なぜかほとんど質問する機会が与えられなかった。
どう考えても日本で最も大坂選手に近い(テニス経験者として)存在の一人である杉山さんがいながら、それを差し置いて英語もテニスも「手ぶら」状態の人間が愚問を重ねた理由が、ボクは未だにわからない。
理由があるとしたら、ただ一つ。
日本の大手メディアにとって、テニス界で何が起ころうが、世界で何が話題になっていようが、どうでもいいのだ。
ただ、ちょっとユニークな「日本人」が世界で活躍した話題を取り上げられさえすれば。

ここにもある、記者クラブの「弊害」

さて、その後も「時の人」大坂選手はメディアに騒がれまくる。
全米オープン直後に日本で「東レ パン パシフィック オープンテニス(通称パンパシ)」に出場することになっていた大坂選手は「凱旋帰国」と騒がれた。
気の毒なことに、取り囲むのはテニスとは無縁の大手メディア。
何としても「時の人」大坂選手を独占したい大手記者クラブメディアは、記者クラブの特権を発動すれば、クラブ外のメディアが排除されることになってしまう。
恐らく今回のパンパシで、これまで比較的容易に取材できていたテニスメディア(専門誌やネット、フリーのスポーツジャーナリストなど)は規模が小さい為にクラブにも所属できてないので、今回のパンパシ取材は例年のようには自由にできなかったのではないか。
ボクが記者クラブを批判する理由はここにもある。
ふさわしいジャーナリストが排除され、門外漢であることが多い記者クラブメディアが取材権を独占してしまうのだ。
タチの悪いことに、記者クラブメディアとしてはネタを独占した方が自分達の報道の注目が集まるので、クラブ外の存在を徹底的に排除する。
しかし、記者クラブの興味はあくまで一過性で、過去の経緯も知らずに取材をする。
結果、視聴者や読者にとっては、薄っぺらい情報しか入ってこない。
大げさではなく、これを世界では「知る権利の侵害」という。報道が本来の機能を果たすどころか、逆にジャマをしている。
その結果が、パンパシ終了後の大坂選手の会見だ。参考にご紹介しているページを見れば、いかに記者クラブの取材がくだらないかが分かる。
興味がないなら、出ていけばいいだけの話だと思うのだが。
そして、間違いなくそれを最も強く感じているのは、大坂選手本人の筈だ。
彼女が日本のメディア、引いては日本の彼女自身を取り巻く環境そのものを、居心地悪く感じるのがそう遠い将来ではないかもしれない、とボクは本気で心配している。

都合のいい時だけ「日本人」

ほぼナイ!」配信中にもご紹介したように、「なおみちゃん」は実はまだ「日本人」と確定したわけじゃない。
大坂選手のように父親と母親の国籍が異なる場合、日本の制度(国籍法)上、本人が22歳になるまでに自分の国籍を決めなければならない事になっている。
国籍の選択は他国が絡んでくる話なので、実際はこの選択は努力目標で、実際は(日本か外国かの)どちらかに決めることはせず、あえてそのまま放置していて、別に処罰もされないという方も多いらしい。
ただ、大坂選手のように有名になってしまうと、恐らく彼女が22歳になるまで(彼女は現在20歳)に国籍の選択をしろ、という空気になり、多分彼女はそうするとみられている。
彼女の場合、父親がハイチ出身の米国人で母親が日本人なので、両親の国籍である米国籍と日本国籍の2つを所有している。いわゆる二重国籍の状態だ。
とはいえ、彼女は幼少期に渡米し、完全に米国人として教育を受け、生活してきている。
彼女の日本語が拙いのは当然で、日本で生活していたのは小学校に上がるまでの話だったらしい。
更に肝心のテニスについては、確かにテニスを始めたのは日本にいた時だそうだけど、直ぐに渡米しているので、彼女のテニスはほぼほぼ米国仕込みという事になる。

ということで、今回の大坂選手の快挙を、「日本人選手初の…」などと騒いでいるのは、ボクにとってはすごく違和感がある。
今回の全米オープン女子シングルス制覇、というのは少なくとも半分は米国テニス界の快挙、という事になる。
確かに、女子テニス選手の場合、オリンピックもあるし、更に フェドカップFed Cup という国別対抗戦もあるので、各選手は自分がどの国の選手か、というのを登録する事になっている。
大坂選手は日本の選手登録をしていて、メディアが盛んに日本人選手というのを強調する最大の根拠はここにあるんだと思う。
ただこの登録は、国籍を変えたりすると実は簡単に変えられるもので、過去にそういう例がいくつもある。
ナブラチロワ(チェコ→アメリカ)とかのケースは有名だ。
テニス以外の家庭の事情などで国籍が変わったことで登録変更するケースももちろんあるし、逆にテニスが理由で登録変更するケースもある。
例えば代表選手になりやすいから、とか。ライバルの数、とか。プレーの環境、とか。

ボクが半ば本気で心配してるのは、大坂選手が将来的に日本国籍を捨てる選択をするのではないか、ってコト。
さっき触れたように彼女は、今回ほぼ初めて日本のメディアの「洗礼」を浴びた。
これまで彼女は米国を中心とした海外メディアを中心に接してきていたので、日本の記者クラブの取材対象になるのはほぼ初めてだった。
今後はそれが加速度的に増えていくはずだ。
更に今回、彼女については、今回のフィーバーの中ですら、ネットなどで「アイツは日本人じゃない」といったネガティブな声が飛び交いはじめている。

彼女が幼少期に渡米したことは、本当に彼女にとって良かったと思う。
まず、彼女のような存在(混血)が日本社会で育っていたら、まず確実に差別の対象になっていただろう。
彼女は一般の日本人と肌の色も違うし、更に日本語のスキルは日本にずっと住んでいたら今とは違っていたかもしれないけど、もし日本人ネイティブとして何の違和感もなくしゃべることができない状態で育ったとしたら、これもイジメの対象になっていただろう。
更に、これは以前に取り上げた「体育」と「スポーツ」に関して言えば、彼女が仮に日本でテニスを学んでいたとすると、当然日本の学校のテニス部で練習を積むことになっていただろうけど、もしそうであれば、まず大坂なおみという選手は今のような世界的プレーヤーにはなっていなかっただろう。これは断言できる。
日本(の「体育」的環境下)でテニスを習う過程で、実際過去に試合中に泣くなどメンタル面の弱さを見せていた彼女は、多分日本の指導者に「根性が足りない」などと叱責されたりして、今より弱いテニス選手どころか、テニスを早々に辞めていた可能性すらある。
ボクが彼女の活躍を日本テニス界の快挙、といって騒ぐメディアに違和感があるのはこのためだ。
彼女の快挙はもちろん大坂家の快挙ではあるけど、日本テニス界の快挙でもなければ、ましてや日本社会全体の快挙でもない。
あえて言えば、彼女の経歴から考えると、彼女をトッププレーヤーにまで育て上げた、アメリカのテニス界やアメリカ社会の快挙だとは言えるだろうけど。

そんなコトを考えると、見ず知らずのヤツに心無いことを言われたり、相手が意図しない中で(だから余計にタチが悪い)自分に対して差別的な言動に接したり、挙句にホントはたいして興味もないクセに自分が欧米で成功したからという理由だけで手のひらを返して「記者クラブ」が押し掛けてきたり、なんて経験は絶対にしたくないので、ボクが大坂選手だったら絶対にアメリカを選ぶな、なんて思ってしまうのだ。
けど、万が一大坂選手が日本国籍を捨て、アメリカ国籍を選び日本の選手登録を変更、なんて事態になれば、一気に日本で彼女の扱いがネガティブなものに変わることは間違いない。
そこまではいかなくても、彼女が徐々に「日本の記者クラブ」に嫌気がさし、記者クラブメディアの取材を避けるようになると(これは結構可能性がある)、彼女の(日本のメディアでの)評判は一気に変わる筈だ。

このことは実は前例がある。記者クラブメディアの取材を避けることで、まるで逆恨みのようにネガティブな報道で悪印象が植え付けられる、という悪しき前例が。
例えばスポーツの例だけに絞っても、野茂英雄氏(野球)だったり、中田英寿氏(サッカー)だったり、挙げるとキリがない。
自分達が相手にされず避けられることについて、不勉強で無理解な上に傲慢、という自分達の非を顧みることもなく、上から目線で「メディア嫌いだ」→「愛想が悪い」→「生意気だ」…
まるで駄々っ子の言い分だけど、記者クラブメディア諸君はどうやら本気でそう信じ込んでいるらしい、というウソのようなホントの話。

イサ&バイリン出版 解説兼論説委員 合田治夫