四国電力が伊方原発3号機を再稼働:「ギャンブル」に興じる司法(2018.10.31配信分レビュー:その3)

ー ほぼナイ! HEAD LINE ー
<噴火による急迫の危険はありません>
伊方原発3号機

伊方原発3号機(写真:毎日新聞)

広島高裁と広島地裁の判決を受けて、四国電力は伊方原発3号機を27日に再稼働させました。

既に広島高裁が四国電力伊方原発3号機の運転を9月末まで差し止める判断を下していたことに対して、四国電力は同じ広島高裁に判断の取り消しを求めていました。
この請求に対しては9月25日に、運転停止の決定をした裁判官とは別の広島高裁の裁判官が、運転差し止めの判断を9月末で期限切れとする決定をしていました。
一方、差し止め判断の延長を求める広島地裁での訴訟は、10月26日に停止延長の申請を却下する判決が出しました。
広島地裁は申請却下について、住民側原告の主張する火山噴火による原発事故の危険性を「急迫の危険はない」ことを根拠としています。

(以上 HEADLINE 2018.10.31)

< ほぼナイ! レビュー動画(Vol.39):【 見逃し配信を視聴 (YouTube)】>

『ココがヘン!ニッポンのニュース:四国電力が伊方原発3号機を再稼働:「ギャンブル」に興じる司法

<参考:河合弘之弁護士監督 映画『日本と原発』『日本と再生』公式サイト広島高裁:伊方原発3号機の運転差し止め命令

広島高裁と地裁で起こっていたこと

原発稼働に反対する住民が伊方原発(愛媛県伊方町)周辺の裁判所に原発稼働の差し止めや運転停止の延長を求める訴訟を相次いで起こしてて、状況が複雑になってるので、いったん整理。
要は去年末に広島高裁がとりあえず今年の9月末までは伊方原発3号機を動かすな、と命令していて、これに対して3号機を再稼働させたい四国電力はこの命令に納得せず、同じ広島高裁に決定の取り消しを求める不服申し立てを行っていた。
つまり、動かすな、と命令されて、四国電力が「ふざけんな!おかしいだろ!!」とキレて、命令してきた広島高裁にもう一回考え直してくれ、という要求をしていた。
これが去年末に差し止め命令を出した広島高裁の裁判官とは別の裁判官が「ウチの同僚が出した去年の命令はおかしかったね。なので、なかった事にします」とひっくり返したのが9月25日。
ただ、この時点では住民側がこの高裁での裁判とは別に、広島地裁で高裁が去年末に出した停止命令を、停止期限としていた9月末以降も引き続き停止させる裁判が並行して行われていた。
なので、四国電力側はこの2つの裁判に両方勝つことで、3号機の再稼働ができる、という状況だったのだ。あー、ややこしい。

残っていた広島地裁も26日に延長申請を却下し、四国電力が勝訴したので、結果2つの裁判に勝った四国電力は連勝が決まった翌27日に待ってましたとばかりに3号機を再稼働した。
以上が裁判の流れだけど、実は決着はまだついてない。
住民側は意地でも3号機を止めると言ってて、松山地裁などで複数の裁判を起こしている。
今後どこかの裁判所でまた停止命令が出る可能性は、十分にある。
更に、もし今起こしている裁判に住民側が全敗しても、多分意地でも止める、と言ってるのだから、再度あちこちで不服申し立てをして、徹底的に四国電力とやりあう可能性が高い。

なんで住民側がこんなにあちこちで裁判を起こすという、ややこしいことをするのかというと、それは裁判所が違えばもちろん違う裁判官がいて、判断が変わる可能性があるから。
実際、過去に全国のあちこちでいろんな原発の運転差し止め訴訟が起きてて、その中のいくつかでは、原発反対の住民側が勝っている。
更に、広島高裁で判断(住民勝訴→住民敗訴)が変わったように、同じ裁判所でも不服申し立てでもう一度裁判、となると裁判官が変わるので、前回と違う判決が出る可能性もある。
原発訴訟の判断は、誰が見ても結論が変わりそうにない犯罪とかと違い、裁判官によって判断が180度変わる可能性が十分ある。
だから、住民側が訴訟を乱発するのも、ちゃんと勝算があってのこと。
どこかで一つでも裁判で勝てばれば、それを取り消す判断が出ない限り、電力会社側は原発稼働を止めなきゃいけないのだ。

「まるでギャンブル」な判断

ところで、ここまで「3号機」と何度も出てきた。「3」があるなら「1」とか「2」はないのか、といえば、もちろんある。
伊方原発には1~3号機まで計3つの原子炉がある。
ただし、老朽化した1号機は既に廃炉が決まってるし、2号機の廃炉も先日発表された。
なので、現時点で伊方には実質3号機の1基だけしか稼働中の原子炉は存在せず、今後4号機が新たに造られることはない筈なので、伊方原発は1基しか原子炉を持たない小規模な原発になった。

ところが、この3号機が実は曲者で、原発反対派の住民などもこの3号機の存在を特に問題視している。
なぜなら、伊方3号機は全国で数基しかないプルサーマル型の原子炉だから。
プルサーマルは簡単に言うと、使用済みの核燃料棒(通常はゴミ)を再生して新たな原子炉の燃料棒をつくる技術のこと。
プルサーマル計画がうまくいくけば、原発の大きな欠点である、使用済みの燃料棒を含む核廃棄物を長期間保管し続けないといけない(小泉元総理は「トイレのないマンション」と呼んでいる)という問題を大幅に軽減することになる。
タダのゴミだったものが新たな燃料の資源になるのだから、ただでさえ資源の少ない日本にはありがたい話だし、何より厄介者でしかなかった使用済み核燃料の量を大幅に減らせる。
原発推進派はプルサーマルを「夢の技術」と呼んで強力に推進しようとしていた。

そんなプルサーマルがなぜ問題かというと、さすが「夢の技術」だけあって、技術的にメチャ高度で、仮にできても安定した運用がこれまた難しいそうで。
なので、通常の原子炉より事故の確率も格段に高く、万が一の時はより深刻な被害が出る。
残念ながら、それを身をもって示したのが3.11の福島第一3号機。結局3号機(伊方も3号機だけど直接の関連はない)は水素爆発、甚大な被害が出た。
原発に詳しい人は、福島第一の事故の知らせを聞いたとき、なんとか3号機には被害が及ばないよう祈っていた、というのは有名なハナシ。
いまだに福島第一周辺は事故前の状況への復帰には程遠い状況であることは、プルサーマルの危険性を見事に証明してしまっている。

原発反対派の中でも、特にこの日本政府のプルサーマル計画の即時中止を求める声は特に大きい。
何を隠そう、ボクもその一人。
ボクが初めてプルサーマルの危険性を知ったのは、確か10年ほど前。
ボクの敬愛する教授(ミュージシャンの坂本龍一氏)のはじめた「STOP ROKKASHO」(公式サイトは既に更新停止中ながら今も残っている)という運動がきっかけ。
この「ROKKASHO」というのは日本唯一の使用済み核燃料再処理工場がある、青森県の六ヶ所村のコト。
ココの稼働が止まれば、日本のプルサーマル計画は即、ジ・エンド。
教授はまさにそれを狙ったのだけど、残念ながら六ヶ所の再処理工場の廃止はまだ決まっていない。
そして、ボクにとっては更に残念なことに、プルサーマル推進派の悲願であったプルサーマル原発の再稼働が、よりによってボクの住む愛媛県(の伊方町)で実現してしまった。
伊方3号機は現在、日本で唯一稼働しているプルサーマル型の原子炉だ。つまり、日本でもっとも危険な原子炉という事になる。

そんな3号機の再稼働を、広島地裁は「(伊方周辺の火山噴火の)急迫の危険はない」とあっさり認めてしまった。
スゴいな、日本の裁判所はいつから(専門家でも困難、あるいは不可能と言われている)火山予知ができるようになったんだろ 👿
大丈夫だ、問題ない、と言ってた福島があんなことになったのに、想像力がなさすぎるし、無責任にもほどがある。
広島地裁は伊方に火山被害が起こったら、当然周辺住民に賠償、なんかするワケないよな、あぁあ。
防ぐことがほぼ不可能な原発の火山被害が起こるか起こらないかを裁判所が言い切るなんて、いつから日本の司法は「ギャンブル」になったのか。

それでも意地でも止められないワケ

原発反対派がどれだけ反対の理由を並べても、日本政府は絶対にプルサーマル計画を止める、とは言わない、いや、言えない。
なぜなら、六ヶ所の再処理工場には大量の使用済み核燃料が既に保管されていて、万が一日本のプルサーマル計画が中止になると、使い道のなくなった使用済み核燃料は即移動させることが六ケ所村との約束だ。
では、問題のタダのゴミと化した大量の使用済み核燃料はどこに行くのか。スゴいことに、誰も知らない。
使い道のない、そのくせ何十万年という気の遠くなる期間、安全かつ厳重に保管する場所を最終処分場というけど、日本にそんな場所はない。
つーか、世界にも1ヵ所しかない。フィンランドのオンカロってところにあるけど、因みにオンカロにはフィンランド以外の国の核廃棄物は受け入れてもらえない。
期待した人、残念でした。世の中そんなに甘くないのよ。
とりあえず日本の原発が出した放射性廃棄物は、とりあえずその「ゴミ」を出した原発内で一応保管されてるけど、それも当然減ることはなく、原発が動いた分だけ増え続ける。
因みに、もし仮に3.11の前のペースで日本の原発が動いていたら、今頃はほとんどの原発が「ゴミ」で満杯になっていた筈、という試算もある。
どうするつもりだったんでしょうね。原発推進派の人からこの問題の解決法を聞かされたことはただの一度もないんだけど。

こんな状況だけど、それでもなんでもプルサーマル計画は止められない。なぜか。
プルサーマル計画が万が一中止になると、原発を所有する各電力会社は一気に大赤字になっちゃうから。
現状、各原発が抱える厄介モノでしかない「核のゴミ」は、なんと現状では会計上 Asset資産 に計上されている。
ウソみたいな話だけど、プルサーマル計画が軌道に乗れば、使用済み核燃料は六ケ所で新しい核燃料にしてもらえて、そうなると発電してその電気は当然売れるから、Asset
ところがプルサーマル計画が中止になると、使用済み核燃料は安全かつ厳重に保管しなきゃいけなくなる。しかも長期間。数十万年。
こうなるといくらなんでも Asset 扱いはできないので、一気に Debt負債 にせざるを得なくなる。
この Debt が並大抵の Debt じゃない。
いつまでたっても出ていかない、ちょっとでも働いて少しでもカネを入れるのかと思っても、そんな素振りすら見せず、ただただ高いメシを喰ってゴロゴロしてるだけの居候。そんな感じ。
余計解りにくいか。とにかく、ゴミはゴミでもそこら辺の生ゴミとはくらべものならないほど、とにかくカネがかかる。
だから意地でも「プルサーマル計画はあきらめる」とは言えないのだ。
他の国はプルサーマルなんかとっくにギブアップしてるけどね。難しいし。危ないし。ついでに、実は意外にカネもかかるし。

Atom = Electron+Nucleus

思い入れが強いので、思いっきり長くなってしまった。
最後に。 “Atom = ElectronNucleus” って、なんだコレ?
Atom は「原子」、Electron は「電子」で、Nucleus は「原子核」。原子は原子核に電子を加えてできます、という物理の初歩。
何が言いたいかというと、原子と(原子)核は違うものですよね?という事が言いたかった。
因みにアメリカではここら辺が実にあいまいで、だいたい何でもかんでも Nucleus で済ませるようだ。
原発は Nuclear Power Plant で、日常会話で Atom が出てくることはほとんどないらしい。
しかし、日本では「原子」と「核」は結構違うものという認識が強い。
正確に訳すと Nuclear Power Plant原子力発電所という訳が定着したけど、ホントは「核力発電所」とかの方が正確な筈だ。

日本語は「」と「原子」を割と明確に分けて差別化している。
」は何となく軍事向け。核兵器、とか、核ミサイル、とか。
平和利用なモノは原発もそうだし、大体「原子」。
原発推進のために、「原子」=安全というイメージ戦略をやったのかもしれない、とか思ってしまう。
」だと兵器っぽいので、原発に危険なイメージがついてしまう。
原子」なら鉄腕アトムのいいイメージもあるし、という判断があったかどうかは定かじゃない。

けど、コレだけはハッキリしている。
電事連(電気事業連合会)からたっぷり広告料が流れ込んでいるメディア各社は、原発のことを批判しずらい
そもそも電力自由化が実現するまで、電力ビジネスは完全に地域ごとに独占していたのだから、競争相手もいないし、当然広告自体不要だ。
そして肝心のCMは「私たちはエネルギーの安定供給を」とか、何を広告してるのかよくわからないCMが流れるのみ。
何回見ても何を伝えたいのかさっぱりわからない。
そりゃそうだ、何も伝えたいことなんか多分ないのだし。ほっといても商品(電気)は確実に売れてるし。

それでも、どんなに中身のないCMだろうと、CMは出し続ける、理由は多分、
「電力会社や原発の悪口は、ほどほどにしとかないと、広告費、止めちゃうよ…。(電事連の心の声、を妄想中)」
こうなると、まさに口止め料。3.11以降、さすがに電事連の広告費は減っていたけど、この数年でまた復活してきたらしい。
電気をほぼ独占的に売ってるだけの団体が、自動車や電機といった日本有数の一流企業のどこよりも広告費が多い、なんて、やはり異常。

そんな広告費に目がくらんで、原発報道を控える、なんて身もフタもないこと、メディア各社の皆さんはやってないですよね? まさか…。

イサ&バイリン出版 解説兼論説委員 合田治夫

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