大坂なおみ選手全豪制覇の裏でまた「白化」騒動:日本人は有名人が嫌い?!(2019.1.30配信分レビュー:その1)
ー ほぼナイ! HEAD LINE ー
<「なおみちゃん」にまたも「白化」騒動です>
大坂なおみ選手が日本女子シングルス史上初の全豪オープン制覇を達成した一方、大会中に公開された日清食品のPR動画に大坂選手の「白化」批判が巻き起こり、日清側は謝罪コメントを発表、動画を削除しました。
昨年9月の全米オープンに続き、4大大会(グランドスラム)を連勝した大坂選手は、2015年の「絶対女王」セリーナ・ウイリアムズ以来の快挙を達成し、同時に日本女子選手初のシングルスで世界ランキング1位に躍り出ました。
そんな大坂選手が全豪大会で奮闘中に、大坂選手のスポンサーである日清食品が大坂選手自身を描いた応援のアニメCM動画を作成・公開しましたが、この動画に描かれた大坂選手の肌の色が同じく動画に登場した錦織圭選手と肌の色が違わず、黒人の父親の影響の強い肌の色を持つ大坂選手を描くアニメとしては、あまりに(大坂選手の)実際の肌の色とかけ離れている、「白化」ではないのかといった批判が巻き起こり、日清側が動画の削除と謝罪コメントの発表というかたちで速やかに対応することになった、というのが騒動の経緯です。
(以上 HEADLINE 2019.1.30)
< ほぼナイ! レビュー動画(Vol.42):【 見逃し配信を視聴 (YouTube)】>
『ココがヘン!ニッポンのニュース:大坂なおみ選手全豪制覇の裏でまた「白化」騒動:日本人は有名人が嫌い?!』
<参考:ハフポスト> 日清CMに大坂なおみがコメント「次回は私に相談を」 ホワイトウォッシュでは?と物議
欧米では深刻な人種差別問題「白化(ホワイトウォッシュ)」
我々日本人にはなかなか馴染みのないものの一つに「白化(ホワイトウォッシュ)」がある。
「ほぼナイ!」でも以前、人種差別問題を取り上げた際に、イギリスの俳優兼ラッパー Ed Skrein が映画『ヘルボーイ』を自主的に降板した件を紹介した。
Ed は誰がどう見てもバリバリの白人なのに、『ヘルボーイ』でアジア人役に抜擢されたことで、当時ハリウッドで問題になってきていた時で、この Ed の起用が Whitewashing:白化 にあたる、と批判の声が上がり、批判の声を受けた Ed 自身が「事情をよく分かってないまま一度は(アジア人役の)オファーを受けてしまった」として、撮影前に降板というか辞退した、という騒動だ。
このように「白化」は特にハリウッドで多く見られる現象で、要は黒人などの有色人種を白人として描く、扱うコト。
一見、あからさまな差別じゃないのでわかりにくいけど、例えば「ヒロイン=白人美女」みたいなある種の「思い込み」は、意外に保守的な思想が根強いハリウッドでは、つい最近までまかり通ってきた。
こうした「思い込み」はハリウッドの人々はもちろん、一般の観客にも根強く残っている。
白人にはそんなに違和感はないけど、黒人に対しては「なんとなく」違和感がある、みたいなコトバで説明しずらい感情は、アメリカ人どころか日本人にだってあったりしないだろうか。
こうした「なんとなく」白人、「とりあえず」白人、という悪意のない「思い込み」そのものが問題だ、という風潮が、ここ数年のうちに急速にハリウッドを起点に世界的に拡がっている。
「白化」批判は芝居の世界だけじゃない。ミュージシャンなど芸能界全般はもちろん、スポーツや政治、更に世の中全般に、人種差別的な言動を許さないという風潮が顕著になっている。
日本では、この手の騒動と言えば、昨年「ほぼナイ!」で紹介した、年末の人気バラエティ番組を巡る騒動が、こうした「白化」に関連する騒動の一つとして話題になった。
まぁ正確に言えば、話題になった、というより、日本社会の人権問題に対する意識の低さが海外メディアの批判の対象になった、ということだったように思う。
大坂選手が再び「白化」の対象に
そして今回、またも大坂選手が「白化」の対象になった。
またも、というのは、大坂選手がはじめてグランドスラムを制することになった昨年の全米オープン直後に次いで、ということだ。
日本の大手メディアは全米オープンで「なおみフィーバー」に沸いていたけど、海外では大坂選手自身が尊敬の対象と公言するセリーナ・ウイリアムズ選手との決勝で、セリーナが審判の判定に再三抗議、暴言を吐くはラケットを壊すはなど大荒れで、試合終了直後の表彰式で観客は大ブーイング、これを自分に対するものと勘違いした(と後で判明した)大坂選手が泣き出すという異様な表彰式になり、セリーナに対する批判が大坂選手に対する賛辞を上回る、これまた異様な報道となったのだった。
この異様な決勝戦(と表彰式)に対し、報道が大坂選手への賛辞に終始していたのは、世界中でほぼ日本のメディアくらいだったと言っていい。
では、この全豪決勝での騒動の何が「白化」だったのかというと、この騒動直後にさらに火に油をことになった「事件」がおこり、そこで「白化」批判も巻き起こったのだ。
まず、批判にさらされたセリーナが、試合直後の記者会見で、自分が審判に抗議したのは、自分が黒人であることから不利な判定をされたからだった、と弁明、ここで一部でセリーナ擁護論が出てきた。
これでただでさえ、セリーナの「暴挙」にグランドスラム初制覇の快挙を台無しにされかかっていた大坂選手の影は更に薄くなる。
2018年の全豪オープンは若きヒロイン(大坂選手)の誕生をたたえる場となる筈だったものが、完全に人種問題の議論の場へと変化してしまった。
そしてこの騒動を受けて開催国のオーストラリアの新聞に掲載された一枚の風刺画が、更に沸騰する議論に油を注ぐことになった。
その風刺画(【画像】豪漫画家が描いたセリーナの風刺画「差別的」と世界中から批判 – ライブドアニュース)に描かれたセリーナが、あまりに侮辱的に描かれていて、黒人女性であるセリーナに対する人種や性に対する差別が感じられると、セリーナ擁護派を中心に批判が起こった。
やっと本題。もう一つ、この絵で審判から「CAN YOU JUST LET HER WIN?(セリーナを勝たせてやってくれない?)」と言われている女性選手、ということはもちろん大坂選手なワケだけど、この女性がセリーナに比べて肌が白く、髪の色も金髪っぽく描かれている、つまり「可哀想な」大坂選手はまるで白人選手のように描かれている、つまり黒人のセリーナを悪者に描くために、同じ黒人の大坂選手が「白化」されて描かれている!と批判の対象になった。
ということで、これが大坂選手の一度目の「白化」騒動だ。
騒動と言っても、もちろん大坂選手は1ミリも悪くなく、単に初優勝を結構な勢いで台無しにされた、ただの被害者、に過ぎないのだけど。
そして今回。今回ももちろん大坂選手は1ミリも悪くない。
今回の騒動の経緯は<参考>ページに詳しいし、試合後の大坂選手の記者会見も動画で見られるので、ここでは詳細は省く。
「アスリートを巻き込むな」のホンネ
今回の騒動で、ボクが「ああ、日本的だな」と思ったのが、今回の騒動で日清の動画が大坂選手を白化している(と騒ぎになっている)事についてどう思うか?と質問した(ネイティブっぽい発音などから判断すると恐らく海外メディアの)記者の質問に対し、「アスリートを巻き込むな」といった論調の批判が結構多いことだ。
こんな批判が出るのは日本くらいではないかと思う。
今回に限らず、スポーツ選手や芸能人など、いわゆる有名人が社会的な問題について発言することや、メディアが取材することを批判的に捉えるヒトが結構多いように思う。
「アスリートを巻き込むな」というのは、要するにスポーツ選手にスポーツ以外の事を訊くな、語らせるな、ということ。
コレ、日本で聞くとスポーツに集中させてあげよう、という配慮のように感じてしまいそうだけど、ホントにこれは配慮でしょうか?
言うまでもなく、有名人も社会の一員であり、納税者であり、もちろん(18歳以上なら)選挙権もある。
受け取りようによっては、「巻き込むな」というのは仲間外れにしよう、こいつらはスポーツ(や芸能)だけやらせとけばいい、と言ってるように聞こえる。
完全な差別・イジメの類としか思えないけど、この手の有名人差別(イジメ)、日本では結構お目にかかることが多い。そうじゃないですか?
そして、それを堂々とやってるのが、実は日本のメディアだ。
事実、社会的問題意識の高い一部の有名人が、メディアで政治的発言をあからさまに封じられたり、暗に「発言しにくい空気」を作られていることを多数証言している。
更に、視聴者や読者の一部もその影響を受けてか「巻き込むな」論を展開したりするので、余計に発言しずらい状況になっている。
ボクはこの「巻き込むな」論は、有名人に対する妬みや嫉妬の裏返しだと思ってて、更に言うと、こういった感情は海外でも当然、ある。
なので「巻き込むな」論ももちろんゼロじゃない。
ないけど、それが社会を埋め尽くす、なんてことはまず、ない。
多くの人が有名人の社会的言動を求めているとまではいかなくても、それが当然と思っている人が大多数だろうし、少なくても政治的言動は控えた方がいい、なんてほとんど考えない。
“Noblesse Oblige” という考え方
「ほぼナイ!」では、一回の配信で一つ、複数のニュースネタに共通する Key Word を紹介するようにしてる(例外多々アリ)けど、今回の配信でボクが選んだのが “Noblesse Oblige” だ。
ノブレス・オブリージュ、ってことで、一般的な日本語訳は、ない。
元はフランス語らしいけど、英語圏でも普通に使う。
要は「(社会的地位が)上にいる人は、社会に対して何らかの責任を負う」って意味。
例えば金持ちは積極的に寄付する、なんてのは典型的な例だけど、社会的に成功したら、その分社会に(お礼の意味を込めて)お返ししましょう、という考え方でもちろん法的に強制力はないけど、やるべきだというのは、それこそそういう「空気」ができている。それが欧米社会の大多数。
寄付だけじゃない。奉仕活動に参加するのももちろんそうだし、その延長で、社会問題に積極的に発言したり、(別に政治家になるってコトじゃなく)政治活動に参加したり、自分の時間や労力を社会の為に使うことは、”Noblesse Oblige” の観点から言って、当然の行為として捉えられている。
間違っても日本の有名人のように、黙ってさりげなくやらないと、金銭の寄付や災害ボランティアが「売名行為」として一部でバッシングされる、なんてアホなことはもちろん、ない。
社会問題や政治問題に対して発言することも、自分の知名度を活かして反対派の批判を覚悟で積極的に行うことが、当然の事という考え方が主流だ。
ちょっと前だと “We Are The World” とかあったし、ボクの敬愛する「教授」は “ZERO LANDMINE(地雷ゼロ)” ってのをやっている。2001年の話。
もちろんミュージシャンだけじゃない。アスリートだって、積極的に発言する人もいるし、全くしない人ももちろんいる。
する、しないも含めて、それぞれ自分の判断で、皆さん自由にやられています。
我が日本のように、有名人の政治参加・社会参加と言えば、ピークを過ぎた人が参院選で政党の客寄せパンダにされる、という一択しかないのは、あまりに不健全だ。
あぁ、最後に。
日本のメディアがとことん「アスリートを巻き込むな」論にどっぷりつかっていることを象徴するようなハナシを。
朝日新聞とYahoo!ニュース(共同通信の配信ニュース)が、大坂選手の記者会見での発言の和訳を真逆に誤訳して配信する、という信じられないミスまでやらかしている。
(大坂なおみ選手の発言を誤訳 日清CM「なぜ騒いでいるかわからない」と配信した朝日新聞やYahoo!が訂正:ハフポスト)
今回の「白化」について大坂選手が「白化について騒動になってることは理解できる」「(けど大会期間中の話なので)そんなに詳しくわかってないので、改めて答えさせて」
という発言を、「なんで(白化について)騒いでるのか理解できない」と言ったことにしている。
自分たちメディアが、アスリートは社会問題のような小難しいことは発言しない、という前提で普段やってるので、その思い込みで記事をつくったとしか思えない。
残念でした。
「なおみちゃん」はアメリカ文化で育った、れっきとしたアメリカ人でもあります。
「白化」の何たるかも、問題の深刻度も十分認識している筈。何せ当事者(非白人種)だし。
ただ、大会期間中の騒動は、当然大会に集中しているので、何が起こってるかはほとんど知らなかったし、そんな状況で自分の社会的地位(トップのテニスプレーヤー)と発言の影響力を考え、更にスポンサーである日清食品の事も配慮して、いい加減な発言はできないし、したくなかった、というだけの事だ。
こんな調子では、そう遠くない将来「なおみちゃん」の社会的言動が、日本のメディアに曲解され、彼女を不利な立場に追い込むことにならなきゃいいけど、と、完全に老婆心ながら半ば本気で心配してみたりする。
イサ&バイリン出版 解説兼論説委員 合田治夫
“大坂なおみ選手全豪制覇の裏でまた「白化」騒動:日本人は有名人が嫌い?!(2019.1.30配信分レビュー:その1)” に対して2件のコメントがあります。
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