「世界の二極化」が止まらない:単純な「結論」を求めるメディア(2019.4.24配信分レビュー:その1)
ー ほぼナイ! HEAD LINE ー
<二極化の拡大が止まりません>
ロバート・マラー(モラー):Robert Mueller 米特別検察官による「ロシア疑惑」の捜査が終了、18日に捜査報告書が提出され、一連の騒動は終結するかと思われましたが、野党民主党のトランプ大統領に対する弾劾の動きはむしろ強まっています。
提出された捜査報告書は400ページ以上の膨大な量である一方、国家機密に関わる内容が含まれるとされる部分が非公開となっており、その解釈はまさに米国を二分しています。
マラー報告書では、大統領選の際にロシアがトランプ陣営に有利になるよう不正に介入し、それにトランプ陣営も関与したとされる「ロシア疑惑」で、トランプ大統領の関与を認められないとし、疑惑を否定する報告となりました。
これを受けて、トランプ大統領は “GAME OVER” とツイートし、一連の疑惑が完全決着し、自身の潔白が証明されたと宣言しました。
その一方、野党民主党など反トランプ派は、未だに非公開となっている報告書の全面開示を求めており、トランプ大統領による捜査妨害の実態など、報告書の内容にはトランプ大統領の疑惑を一層深める記述が含まれるとして、トランプ大統領の 弾劾:Impeachment を求める声はむしろ強まっており、米国の二極化はさらに深まる結果となっています。
(以上 HEADLINE 2019.4.24)
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『ココがヘン!ニッポンのニュース:「世界の二極化」が止まらない:単純な「結論」を求めるメディア』
<参考:BBCニュース> 【解説】 ムラー報告書で新たに分かったいくつかのこと 大統領の今後は
ロシア疑惑-騒動収束どころかむしろ加熱
トランプ大統領の就任以来、ずっとくすぶり続けてきたスキャンダルが、米大統領選の最中にロシアが不当に選挙に介入し、それにトランプ陣営が関与したか少なくとも黙認したのではないか、という「ロシア疑惑(ロシアゲート):Russia-gate」だ。
この疑惑、ロシアの不当介入は明らかになっているけど、これにトランプ陣営が関わっていたかどうかが最大の焦点になっている。
この疑惑をずーっと追っかけるために Special Counsel に任命されたのが、元FBI長官のマラー氏で、トランプ相手でも手加減しない人物、との評価があり、マラー氏の出す捜査報告書が注目されていた。
因みに日本の報道ではマラー氏の肩書は 特別検察官 となってるけど、一部で誤訳だ、との指摘もある。確かに検察官なら素直に直訳すると Prosecutor なので、Special Counsel は「特別顧問」とかが適当じゃないか、という指摘もある。
ま、いずれにしても「ロシア疑惑」の米国内での捜査はマラー氏が仕切ってきたことは間違いない。
で、注目の マラー報告書:Mueller Report が公表され、「ロシア疑惑」の結論が出た、ハズだった。
ま、そんなに単純にはいかないだろ、とは思ってたけど、やっぱり、とゆーか、ボクの想像以上にこのハナシ、泥沼化している。
まず肝心の報告書の結論は、思いっきりハショって言うと、「トランプがクロとは言い切れないけど、自信をもってシロとも言い切れない」という、いかにも日本的な結論になっている。
で、これを受けてトランプは例によって得意のTwitterで「GAME OVER」と画像付きでツイート、「結論は出た、自分は無実だ、だってクロじゃないんだからシロってことだ」と事実上の勝利宣言をした。
当然対立する野党民主党はじめ反トランプ派は「シロでもクロでもないなら、少なくともグレーだ、疑惑はむしろ深まった」と反撃、トランプ 弾劾:Impeachment つまり大統領を即刻辞めろという声を一段とヒートアップさせている。
更に悪いことにこの報告書、日本の法務省に当たる 司法省:United States Department of Justice (DOJ) ってことは結局トランプ政権側が、公表の際に一部を黒塗りにしていて、民主党側はこの部分の開示を強く要求、「隠蔽だ、見せろ」「国家機密だ、見せられない」とメチャクチャ泥沼状態がずーっと続いている。
完全にちょっと前のモリカケ状態だけど、現状、日本の野党と違って米国の野党は結構強く、ほとんどイーブンの状態なので、余計に決着が見えない、というのがとりあえず今までの流れ。
因みに反トランプ派は、ロシア疑惑の追及の矛先を、なかなか立証が難しいロシアとの共謀やロシアの不当介入の黙認から、疑惑の捜査をトランプ自身が妨害しようとした司法妨害の容疑に変えてきていて、余計に話がややこしくなってきている。
ついでに言うと、報告書の公開当初はトランプが余裕で逃げ切るかと思われて来たけど、前評判以上に野党がトランプを責め続けて押しまくっていて、更にはロシア疑惑以外の疑惑(トランプが徹底して慣例化している大統領の納税証明書の公開を拒否し続け脱税疑惑まで出ていたり)も飛び出す一方、トランプの支持率は好調な米国経済の上昇傾向をバックに過去最高(あくまでもトランプの支持率の中で。他の歴代大統領と比較すると全然高くない)も記録したりと、いろんな意味で先が読めない状況が続いている。
はっきりしているのは、トランプ支持派とアンチ・トランプの対立はどんどん鮮明になっているってコト。
ホントにアメリカが2つに分裂するんじゃないかというほどの対立が、政治の世界だけじゃなく市民レベルでも続いている。
二極化はアメリカだけじゃない?!
アメリカが「トランプ vs 反トランプ」で国を二分する騒ぎになっている一方、ヨーロッパでも同様の状況が起きている。
例えば、今ヨーロッパで最もホットな話題の一つがイギリスのEU離脱問題(とゆーかほとんど騒動)、ブレグジット:Brexit も、要は離脱派とEU残留派でイギリスを文字通り二分して大騒ぎになって未だ決着の雰囲気すらない、ってハナシ。
一応国民投票では既に離脱の結論が出てるけど、どうせEUから抜けるなら、これまでEUに損させられた(とイギリスの離脱派は思っている)分を少しでも取り返して有利に離脱したい、Hard Brexit:合意なき離脱(いがみ合っての離脱) だと手ぶらで離脱することになるから、今より損しかねない、ってことで、更にEUから有利な条件を引き出そうと交渉を求めるメイ首相は、勝手に出ていくイギリスにいい思いは絶対させたくない、むしろ離脱後ボロボロにして、離脱したことを後悔させてやる、ってノリのEUと、ちゃんと有利な交渉をまとめないとタダじゃおかないないぞ、と息巻くイギリス議会との板挟み状態。
ついにはメイ首相、EUとの離脱交渉をまとめたら潔く首相を辞めます、とまで宣言させられて、それでもイギリス議会は全くメイ首相に妥協する姿勢を見せない状況が続いていて、イギリスではただただ、ズルズルと結論が先送りされ、時間だけが過ぎていっている。
一方、フランス。
最近少し落ち着いたようだけど、近年まれにみる、まさに国を挙げての大規模なストライキ(黄色いベスト運動:Yellow Vest movement)が各業界の労働者が待遇改善などを求めてマクロン政権の経済・社会福祉政策を批判、ただのストというか、一部が過激化した暴動にまで発展して大きな話題になった。
フランスはもともとストが多い国だけど、そんなフランスですら大ニュースになるほど、その規模や過激さは近年にないスゴさらしく、マクロン仏大統領への反感がハンパじゃないらしい。
就任当初はその若さや新鮮なイメージがフランス国民に受けて、私生活も含め人気が高かったのにねぇ… 😥
他にイタリアとかヨーロッパ各国でいわゆる 極右勢力:Extreme Right, Far Right, Radical Right, Ultra-Right の台頭が話題になっている。
基本的にその主張はどこも大体トランプ米大統領の主張に似ていて、一言でいうと自国優先主義だ。
移民受け入れの大幅制限→移民排斥 と 経済はとにかく自国利益最優先で、これまで負担を分担させられてきたEUから距離を置け、他国との協調なんてクソくらえ、みたいな主張のオンパレード。
こういう主張をする政党が勢力を伸ばす国がどんどん出てきている…といったニュースは、日本の海外ニュースでも最近よく見かけるようになっている。
世の中はそんなに単純じゃない
そろそろ今回のまとめ。
日本のメディアが伝えるように、アメリカもそうだしヨーロッパ各国での極右勢力の台頭は本当だし、日本同様、世界のメディアで報道が過熱している。
ただ、「ほぼナイ!」で再三批判し続けている、日本の記者クラブメディアと海外メディアでは、同じニュースでもその扱い、伝え方は相当違う。
例えば今回取り上げた極右勢力台頭についても、海外メディアでは日本のメディアのように「極右が盛り上がってる、危険ですね、以上」というような捉え方はほとんどしてない。
どの国にしても、極右勢力が議会で過半数を占めた、というのなら話は別だけど、どの欧州各国でも極右勢力は増えているとはいえ、過半数には至っていない。
となると、今回の大テーマである、あくまで「二極化」が最も注目すべきポイントだ。
全人口の過半数は反極右で、もちろん我が身はカワイイけど、他人の幸せも願いたいし、困っている弱者は助けるべきだし、みんなで仲良く平和に暮らしたい、と願う人の方が多数派だ。
だから極右の盛り上がりとは別に、反極右の動きも同じかそれ以上に大きい。
こんなことは、ちょっと考えれば、あるいは情報を冷静に見ればすぐ気づくハナシだけど、記者クラブメディアはとにかくやたらと単純な結論を出すことがお好きらしい。
そして結論(例えば欧米の右傾化)を決めると、とにかくその意見だけを集中的に取り上げ、そのほかの動きはほとんど無視する。
「世界は右傾化している」という情報があると、番組や紙面はほとんどそれ一色。
ではそれに反対する動きはないのか、とか、反対派がいる筈だからそちらも同じように取り上げないとフェアな報道とは言えない、といったことは考えてない(ように見える)。
その結果、記者クラブメディアだけに触れていると、世界の大多数が右傾化している錯覚に陥ってしまうことにもなる。
そもそも「黄色いベスト運動」なんかは労働者のストなのだから、右傾化というよりむしろその逆の動きだけど、そういうことはほとんど語られず、暴力的な抗議活動だけを映して終わり、みたいな乱暴なまとめ方で、それだけだと右傾化の一端と勘違いしかねない。
「世の中はそんなに単純じゃない」
だからいろんな考え方があり、物の見方があり、簡単に一言で結論が出るようなものでもない。
その多様性を伝えるのがメディアの大事な役割の筈なのだけど、他社と横並びでクラブ内で情報を集めることに熱中し、与えられた情報をそのまま流す、更に異論は極力排除する、という記者クラブメディアの悪癖が如実に出ている、これも悪例の一つと言える。
イサ&バイリン出版 解説兼論説委員 合田治夫
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