「サブスク」が変える経済:「○○ホーダイ」の行き着く先は?(2019.4.24配信分レビュー:その2)

ー ほぼナイ! HEAD LINE ー
<経済構造が激変しています>

消費低迷が指摘される中、自動車やファッションなどの従来なかった様々な サブスクリプションサービスSubscription Service を大手各社が投入し、経済構造の転換期と指摘されています。

スマートフォン(スマホ)の普及でインターネットが急速に普及するのにあわせて、同じく急速に普及しているのが「サブスク」の通称で知られる サブスクリプションサービス(定額制)Subscription Service です。
普及当初は音楽配信やゲームなどのアミューズメント系や電子書籍に代表されるスマホ関連のサービスが主流だった「サブスク」も、サービスの普及が加速することでそのサービスの収益性に着目した他業種が相次ぎ「サブスク」市場に参入してきています。
ファッションや飲食といった従来なかった異例の業界の参入に続き、トヨタ自動車までもが「サブスク」市場への参入を発表し、大きな話題となりました。
高額商品の象徴ともいえる自動車までも「サブスク」の対象となったことで、今後も益々「サブスク」ビジネスの拡大が予測されています。

(以上 HEADLINE 2019.4.24)

< ほぼナイ! レビュー動画(Vol.45):【 見逃し配信を視聴 (YouTube・part 01) 】【 見逃し配信を視聴 (YouTube・part 02) 】>

 

『ココがヘン!ニッポンのニュース:「サブスク」が変える経済:「○○ホーダイ」の行き着く先は?

<参考:ニュースイッチ (日刊工業新聞)車もテレビも家具・衣服も…“サブスク”サービスの拡大が止まらない

すべては「ケータイ」からはじまった

一般的にスマホで利用される様々なサービスでは俗に「○○ホーダイ」の名称などで、ここ数年で爆発的に普及している。
一つの商品やサービスに対してその対価を支払う(店や業者の立場から見ると支払われる)従来のビジネスモデルと違って、主には月ごとに予め決められた料金を支払うことで、決められた範囲内で無制限に自由な商品・サービスを購入・利用できるのが「サブスク」(定額制)の特徴だ。
購入する商品やサービスの多寡、つまり沢山買おうがちょっとだけ買おうが同額を支払うのだから、元を取る、ということを考えるなら利用者・客は当然たくさん買ったり利用したりしようとする。
その結果、購入時やサービス利用時にその料金を支払うよりも、割安なお買い物・サービス利用ができる、というのが「サブスク」の大きなセールスポイントになっている。一番のウリ、というワケだ。

この「サブスク」が普及し始めた数年前は、「サブスク」の代表的なサービス・商品といえばケータイの利用料やケータイで使う音楽配信や電子書籍などのサービスだったと思う。
いわゆる「○○ホーダイ」の名称で、サービスの利用時(例:通話や音楽などの視聴、占いやニュースなど各種コンテンツの購読・閲覧)には課金(料金が発生)せず、まとめて予め決められた料金が口座引き落としなどで支払われる、と言うと、「サブスク」がどういうものかイメージしやすいと思う。
この「サブスク」、必ずしもいいハナシばかりではなくむしろその逆で、「サブスク」と聞くと、キライだ、とか、結局損するイメージがある、という方も多いかもしれない。

サブスク」の最大の特徴として、実際の商品・サービス購入時や利用時と、料金支払い・決済のタイミングが全く違うということがある。
ということで、ユーザー・顧客(一般の消費者)の立場からすると、購入と支払の関係がリンクしない、という、従来はありえなかった奇妙な状況が生まれることになる。
つまり、実際に商品を買ったりサービスを利用していても、それに支払っている実際の金額がイメージしにくかったり、もっと極端な例(というか実際にはすごく多いかもしれないケース)だと実際は不要なものに料金を支払っていた、という、まさに従来ではありえない事態まで起こっている。
冷静に考えると奇妙なハナシだけど、日本人の国民性なのか、特にケータイの料金はロクに使ってもいないモノやサービスに毎月の料金を支払う、あるいは黙って気づかないうちに銀行口座から引き落とされている、という例は少なくない。
店や業者側もそれが分かっていて、ワザと判りにくい料金明細にして客の気づかないうちにワケのわからない請求を潜り込ませて「ハイ、今月は〇〇円です」とまとめて請求していた、という、こうやって文章で書くと限りなくサギっぽいことが横行(請求するキャリア側は絶対に故意とは認めない)し、その結果「ケータイは高い」という、ある意味濡れ衣的な要素も含みつつケータイ料金に対する負のイメージが、今でも一部つきまとう事にもなった。

ただ、ケータイの主役がガラケーからスマホへと移行し、業者間の競争も激化、そのビジネスモデルも徐々に洗練されていった。
一方でユーザー側も目が肥えてきたと言うか慣れてきたと言うか、粗悪なサービスが市場から淘汰される事になり、ユーザーサイドから見て本当に「おトクな」商品・サービスが主流になってきた。
そうすると、販売時の一回限りではなく、固定した収入が見込めるという、店や業者の立場からすると実に「オイシイ」点が着目され、飲食やアパレルなど本来ケータイとは無縁な業界の「サブスク」参入が徐々に増えることになった。

増え続ける「サブスク」ビジネス

本格的な「サブスク」の走りと言えば、何と言っても音楽配信だ。
スマホの普及で通信や音楽視聴の質が劇的に向上した。要するに、いい音(質)で手軽に音楽が楽しめるようになった。
具体的には、月額○○円で多くの楽曲を自由に聴くことができる「Spotify」や「Apple Music」、「AWA」といった多くの定額制音楽配信サービスだ。
多数の楽曲を月極の料金で無制限に聴くことができる「サブスク」の音楽配信サービスは、毎月たくさん曲を聴く、という音楽好きにとっては、従来よりはるかに安価で音楽を楽しめる夢のようなサービスということになる。
その一方で、音楽ビジネスで生計を立てるミュージシャンや歌手、裏方さんといった「(プロの)音楽業界人」にとって「サブスク」の普及は、決して大げさでなく、文字通り死活問題になっている。
サブスク」というと聞こえはいいかもしれないけど、これまで個別の楽曲を1曲〇円、あるいはアルバム1枚を××円、という事でバラ売りしてたものを、曲数や枚数という単位に関係なく、しかも他のアーティストとまとめて売られてしまうのだから、まさに「もってけドロボー」の世界で、サブスクの分け前があっても、これまでの印税からすれば(音楽業界側からすれば)大幅な収入減となる。
事実、CDの売り上げはここ数年で激減していて、「CDが売れない」というのは超人気アーティストにとっても決して例外ではなくなっている。
CDの売り上げ枚数はここ数年で急速に減少しており、かつて大ヒットの象徴と言われた100万枚を超える売り上げを指す「ミリオン」を記録するCDは皆無になっている。
それとは別に「サブスク」の音楽配信サービスは利用者を順調に伸ばしており、かつてCDを買っていた層が「サブスク」に移行している、という分析は正しいかもしれない。

音楽や電子書籍などのデジタルコンテンツだけじゃない。
ファッションや外食など、様々な分野で「サブスク」は食べ放題とか借り放題とか回数無制限とか様々な形で、実質的な値引き販売、しかもかなり大規模な「価格破壊」が急速に広まっている。
本来一つの商品ごとに課金・販売してビジネスを成り立たせてきた多くの業界が、あの手この手で「サブスク」の手法を使って、何とか「おトク感」を演出しようとしてるけど、要はこれまでとはカタチを変えた「値下げ競争」であって「価格破壊」なのであって、モノが売れない、結局デフレから一向に抜け出せない日本経済の低迷ぶりの象徴と言える。

「サブスク」は経済低迷の象徴

ハナシをもう一度音楽に戻す。
サブスク」が伸びる一方で、音楽業界の売り上げは明らかに減少していて、業界全体は大きな曲がり角に直面している。
例えば大物アーティストですら、自由に作品を発表する機会が徐々に減ってきていて、(楽曲の制作はもちろんパッケージ製作や流通も不可欠なので)売ること自体にコストがかさむCDはそもそも作らず、比較的低コストで販売できる「iTunes Store」や「レコチョク」などでのダウンロード販売のみに限定される作品も増えてきている。
そして、このダウンロード販売限定の作品ですら、「Spotify」や「Apple Music」などの定額制配信サービス(「サブスク」)に同時解禁されるケースも多い。
実質的な「安売り」「叩き売り」で、商品に「適正な」価格をつけて販売する、というごく当たり前のことが行われなくなってきている。

モノやサービスが安く買える、ということは、一般の消費者にとっては良いことのように思えるけど、必ずしもそうとは言い切れない。
「適正な」価格で売れなくなった業界は、そのビジネス自体の維持ができなくなり、そうなると当然ユーザーにモノやサービスの提供が行われなくなってしまう。
例え、ユーザーがどんなにそのモノやサービスを必要としていたとしても。
「適正な」価格、とは、要するにそのモノづくりやサービスの提供が維持できる価格、ということだ。
決してメーカーや業界をボロ儲けさせるような金額じゃなく。
でも、そうした「適正な」価格設定をすること自体が難しくなっている。
現状、日本では多くの業界で、そうした現象が「サブスク」の普及というかたちで目立つようになってきている。
「サブスク」にはあまりにマッチしないのでは、と考えられる自動車業界で、しかも業界最大手のトヨタが「サブスク」を開始したというニュースは、驚きと同時に、ここまで日本経済の現状は厳しいのか、という現実を見せつけられた思いがする。

もちろん、海外でも「サブスク」ビジネスは増えてきているけど、日本のサービスの普及は明らかに図抜けている。
そのウラには、日本がもともとケータイで「サブスク」のビジネスモデルを世界に先駆けて拡大させてきたし、考えてみれば日本古来の「サブスク」もある。
ほぼナイ!」で指摘したけど、新聞の宅配だ。これは日本社会に古くから根付いている、典型的な「サブスク」ビジネス。
そうしたこともあってか、日本社会はモノやサービスに「適正な」対価を支払うことで、ビジネスやサービスを維持することが、結果的に自分のメリットになる、という意識が足りないような気がする。

イサ&バイリン出版 解説兼論説委員 合田治夫

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