クリスマス特番:「在イスラエル米国大使館移転宣言」の意味&トランプ政権の一年を振り返る

※クリスマス特番で番組は特別編成だった為、『ほぼナイ! HEADLINE』はお休みしました。

< ほぼナイ! レビュー動画(Vol.30)【 見逃し配信を視聴 (YouTube)】>


『ココがヘン!ニッポンのニュース特別編:「在イスラエル米国大使館移転宣言」の意味&トランプ政権の一年を振り返る』

<参考:WEDGE Infinity(ウェッジ)トランプが開けたパンドラの箱、エルサレム大使館移転問題の行方

いま世界が最も注目するニュースは?

在イスラエル米国大使館

在イスラエル米国大使館

今年最後の「ほぼナイ!」は、ゆっくり一年を振り返る、というベタな進行を予定していたんだけど、やはり1カ月の間にはとんでもないニュースが起こってしまう。
最近の日本の報道の主役は「横綱が殴ったのはビール瓶でか、リモコンでか」「貴乃花親方の処分は?!」という相撲ネタだが、ボクが相撲に一切興味がないこと以前に、日本以外ではそんなニュースには一切価値がない。
ということで世界の報道では当然のようにスルーされている。

現在の世界最大の注目ニュースは、トランプ大統領の『在イスラエル米国大使館移転宣言』だ。
しかもご丁寧に “Eternal Capital of Israel” などと思いっきりダメ押ししているので、もう後戻りはできない。
とフツーは思うのだが、トランプは平気でコロッと言うことを変えるので、どうなることやら。
少なくとも現時点では思いっきり移転にノリノリな感じだ。
実は配信日前日の24日には、中米グアテマラのモラレス大統領がアメリカに追随して大使館のエルサレムへの移転を表明している。
そのほかの国もいくつか追随する動きが出てくるとも言われているけど、定かじゃない。

どっちにしろ、中東問題、というと必ず出てくるのが、この イスラエルIsrael という国。イスラエルは常に近隣諸国とモメている、という印象を持っている人が多いんじゃないか、と思う。
そして、なかでも エルサレムJerusalem はイスラエル関連のモメ事となると、毎度登場してくる、ある意味世界でも最も ややこしい、ビミョーTouchy な問題を抱えた場所だ。

なぜ「イスラエル」は中東でいつもモメるのか?

中東、といえば石油。中東諸国の多くは産油国で、長年莫大な利益を得ている。
多くの国が中東の石油に頼っていて、日本もその例外じゃない。
だから中東問題は全く他人事じゃない。当然世界の報道メディアも注目している。

そんな中東の国のほとんどが、イスラム教(昔は「回教」とも言っていた)の国。細かいことを言うと宗派が違ったりはするけど、イスラムは、イスラム。
そんな中で、中東では他の宗教は完全なマイノリティ。そのマイノリティな国が、イスラエル、というワケ。イスラエルはユダヤ教の国。
ということで、イスラエルは中東で周りをイスラムの国々に囲まれ、孤立している。
昔はイスラエルという国すらなく、ユダヤ教徒は世界中に逃げていて、その一部はアメリカに定着した、という過去もある。
われわれ日本人にとって、宗教が原因で争ったり逃げたりすることは、説明を聞けばわかったような気になっても、理解しがたい部分もあるかもしれないけど、世界のモメ事は宗教が原因であることが多い。
日本人はある意味、宗教に疎いというか興味がないヒトも多いので、余計に宗教を背景にした中東のハナシは理解できなかったりする。

そこで、「ほぼナイ!」ではこの中東問題を理解するカギになる、宗教についてざっくりとまとめて解説してみた。
ここに改めてウェブ版として再掲するので、イマイチわかってない人は、この機会に熟読してみましょう。

サルでもわかる中東問題入門:「国教」と「聖地」と「3つの宗教」

図を見てもらったら分かる通り、3つの宗教(ユダヤ教・キリスト教・イスラム教)は実は同じルーツで、本来はいがみ合うような関係じゃない。
数日前に、某ジャーナリストのテレビ番組で、3つの宗教がそれぞれ対立した結果、分裂して今の3つの宗教ができた、的な説明をしていたけど、その説明は正確じゃない、とボクは思う。
起源が一緒だから、聖地もダブって当然だし、それぞれの信者が常に対立している、というワケでもない。
むしろ周りが対立を煽ってきた側面もある。世界最大の「兄弟ゲンカ」みたいなものだ。なので、「ほぼナイ!」的にはあえて、中東問題は解決できるはず、と期待も込めて。

実は既定路線だったトランプの「大使館移転宣言」

ほぼナイ!」でも説明した通り、今回の「大使館移転宣言」は、世界中で批判されまくっている。
特にアメリカは中東問題に関して、イスラム諸国への配慮に欠ける言動が目立つ、と批判されてきた。
だから、中東には強い反米感情を抱く人々が多く、それがテロにつながったりしている。象徴的なのが、あの「9.11同時多発テロ」だ。
今回のトランプの言動で、例えば何年か経って、人々の記憶から今回の事が忘れられた頃に、同じような事が起こらない保証は、残念だけど、どこにもない。
長年の恨みや反感は、長い年月を経て晴らそうという考えがあっても、全く不思議じゃない。

トランプの圧力に屈しただろうグアテマラのように(経済援助目当てで)アメリカに追随せざるを得ない国は少なくない。
それ以上に、今回のトランプの「大使館移転宣言」について、当然だと思っているアメリカ人は結構多い。
アメリカのメディアは、ここで何度も言ってきた通り殆どが反トランプなので、当然のように今回の決定を一斉に批判してるけど、現地の根強いトランプ支持者を含め、アメリカにはイスラエルにシンパシーを抱く人が結構いる。少なくともイスラム教徒よりはるかに多い。
それに、アメリカには中東で居場所を失ったユダヤ教徒の子孫らがいて、数は多くない(アメリカのユダヤ教徒は全米で2%程度)のに、強い政治的発言力も持っている。

どれくらいアメリカの政界でユダヤの影響が強いか。
実は今回の「大使館移転宣言」はトランプ独自の公約じゃない。前任のオバマ、その前のブッシュ、更にその前のクリントン…
トランプ政権のはるか前から、アメリカはもうイスラエルの首都をエルサレムと認め、在イスラエル 大使館Embassy を現在のテルアビブから首都であるとしたエルサレムに移す法律を米国議会が決めている。
後はこの法律をいつ実行に移すかで、実はアメリカの在イスラエル 総領事館Consulate General は既にエルサレムにある。なので、ここが大使館です、と言ってしまえば、あっさりと大使館移転ができちゃう状況なのだ。
つまり、法律も通っていて、移転準備も万端、という状態がずーっと続いているのだ。
あとは大統領が半年ごとに移転を実行に移すかを決めることになっていて、歴代の大統領はこの決定を先送りにしてきた。
移転がこれまで行われていなかったのは、このため。
トランプ政権ももうすぐ一年を迎えるが、前回は歴代大統領に倣って、移転を延期していた。それを今回は、もう延期しないと宣言した、ということに過ぎない。
トランプからすると、元から決まっていたことで、それを決定通りやろうと思う、ということに過ぎない、ということだろう。

ただ、さすがのトランプも、実は具体的にいつ移転を実行に移すか、というのは明言していない。
なので、実質的には歴代大統領と何も変わらない、ということも言える。現時点では。
日本のメディアはここまで伝えているものはほとんどない、と思う。
アメリカに関する日本の報道は、ほぼアメリカの主要メディアのパクリなので、トランプ憎しの論調にそのまま乗っかっている。
まぁ、それ以前にこの問題をそんなには熱心に伝えてないようだけど。

トランプ政権の一年を振り返る

やはり2017年はトランプの一年だった。ほぼナイ!」でも、ほぼ毎回のようにトランプネタを取り上げてきた。
ということで最後に、簡単にトランプ政権の1年を振り返ってみる。Back to the basic.(基本に返る)ってことで、大統領選の時からトランプ陣営が主張してきたことを振り返る。

  • America First(※自分勝手なわがまま、という側面もありながら、結果的には他国不介入主義であり、石油などの利権目当ての軍事介入もなくなる。もし本当に政権の最後まで貫ければ、特に中東諸国では歓迎される可能性大)
  • Drain the swamp.(※あえて訳せば「ドブさらい」か。swampは「沼」だけど、腐敗しきったワシントン(政治権力)をたとえている。つまり、日本の政治で言う「しがらみ政治の打破」みたいなカンジ)
  • Establishment(※トランプは自分と敵対する政治家や役人など既存の権力者をこう呼ぶ。日本の報道番組などでもこの言葉について様々な説明がされてるけど、ボクはほぼナイ!」で「既得権者」と訳した。我ながらウマい訳だ、と自画自賛
  • Deep State(※直訳すれば「闇国家」で、国家(政治権力)の中の国家。裏から政治権力を操る、みたいな意味。日本政治で使われる表現としては「伏魔殿」なんかがピッタリくる。ただ、この言葉をアメリカでマジメに使っていると、陰謀論者とバカにされる可能性もある)
Steve Bannon氏

Steve Bannon氏

Deep Stateに限らず、これらの言葉は、いずれも反トランプ勢力(主要メディア含む)からすると、トンデモない愚か者の戯言、くらいに思われているが、トランプ支持者からすると、非常にキャッチーな言葉、ということになる。

そして、日本の政治解説っぽくトランプ政権の一年をまとめると、”KUSHNER vs BANNON” ということになる。
クシュナーは以前説明したが、長女イヴァンカの旦那。
バノンはトランプの大統領選時代からの側近であり知恵袋的存在だが、既に政権からは去っている。
クシュナーはどちらかというと、従来の政治家のスタンスや考え方に近く、既存の政治勢力を完全否定するバノンとはかなり違う。
前に挙げた4つのキャッチフレーズは、バノンが打ち出したものと言われていて、ということは、クシュナーは必ずしもこういった考え方は採らない、と言われている。

Jared Kushner

Jared Kushner氏

更に言うと、クシュナーはユダヤ人のユダヤ教徒で、イヴァンカはクシュナーの影響で既にキリスト教からユダヤ教徒に 改宗Convert している。
当然、今回の大使館移転宣言も、クシュナーの影響だろう。
一方、バノンは極右などと評されるが、「結果的に」平和主義者でもある。他国に(軍事)介入することは、アメリカにとってマイナスだ、という信念がある。
事実、トランプ政権の一年で、何のかんの言いながら本格的な軍事介入をしたのは、イヴァンカ(とクシュナー)が強くプッシュしたと言われるシリア空爆の一回だけだ。
過去の政権に比べて、トランプ政権は他国への軍事介入に消極的だ。明らかにバノンの影響だろう。

この両者(クシュナーとバノン)の違いが、トランプの発言がブレる、コロコロ変わる、と言われるカラクリだ。
つまり、クシュナー達の言うことを聞くとAの意見になり、バノン達の言うことを聞くとBの意見になる。
トランプが人の意見に素直に耳を傾けている、とも言えるし、自分がなくて何も考えてない、とも言える。
現時点では、トランプはクシュナー寄りだと推測される。
事実、ほぼナイ!」で紹介したように、クリスマスと同時期に祝われるユダヤのお祝い、ハヌカを祝うツイートをトランプがしている。
だが、トランプの事だ、またいつスタンスを変えるか、それは誰にもわからない。

今後クシュナー派かバノン派か、どっちが強くなるかで、トランプ政権の今後の行方も決まってくるだろう、と日本のメディアが好きな政局的視点から分析してみた。

イサ&バイリン出版解説兼論説委員 合田治夫

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